自宅で寝てても経験値ゲット!~転生商人が最強になってムカつく勇者をぶっ飛ばしたら世界の深淵に

「本日は『星多き空』特別カヌーへご乗船ありがとうございます。これより当カヌーは離陸いたします。しっかりとシートベルトを締め、前の人につかまってくださ~い」
「シートベルトって?」
「あー、そこのヒモのベルトを腰に回してカチッとはめて」
「あ、はいはい」
 器用にベルトを締めるドロシー。
「しっかりとつかまっててよ!」
「分かったわ!」
 そう言ってドロシーは俺にギュッとしがみついた。ふくよかな胸がムニュッと押し当てられる。
「あ、そんなに力いっぱいしがみつかなくても大丈夫……だからね?」
「うふふ、いいじゃない、早くいきましょうよ!」
 嬉しそうに微笑むドロシー。
「当カヌーはこれより離陸いたします」
 俺は隠ぺい魔法と飛行魔法をかけ、徐々に魔力を注入していった……。
 ふわりと浮かび上がるカヌー。
「えっ!? えっ!? 本当に飛んだわ!」
 驚くドロシー。
「何だよ、冗談だと思ってたの?」
「こんな魔法なんて聞いたことないもの……」
「まだまだ、驚くのはこれからだよ!」
 俺はそう言って魔力を徐々に上げていった。
 カヌーは加速度的に上空へと浮かび上がり、建物の屋根をこえるとゆっくりと回頭して南西を向いた。
「うわぁ! すごい、すご~い!」
 ドロシーが耳元で歓声を上げる。
 上空からの風景は、いつもの街も全く違う様相を見せる。陽の光を浴びた屋根瓦はキラキラと光り、煙突からは湯気が上がってくる。
「あ、孤児院の屋根、壊れてるわ! あそこから雨漏りしてるのよ!」 
 ドロシーが目ざとく、屋根瓦が欠けているのを見つけて指さす。
「本当だ、後で直しておくよ」
「ふふっ、ユータは頼りになるわ……」
 そう言って俺をぎゅっと抱きしめた。
 ドロシーのしっとりとした(ほほ)が俺の(ほほ)にふれ、俺はドギマギしてしまう。

 高度は徐々に上がり、街が徐々に小さくなっていく。
「うわぁ~、まるで街がオモチャみたいだわ……」
 気持ちよい風に銀色の髪を躍らせながら、ドロシーが嬉しそうに言う。
 石造りの建物が王宮を中心として放射状に建ち並ぶ美しい街は、午前の澄んだ空気をまとって一つの芸術品のように見える。ちょうどポッカリと浮かぶ雲が影を作り、ゆったりと動きながら陰影を素敵に演出していた。
「綺麗だわ……」
 ドロシーはウットリとしながら街を眺める。