俺はただの孤児では終わらない、成功への道を一歩踏み出した実感に打ち震えた。

 その後、★3をいくつか採集し、陽も傾いてきたので帰ることにする。
 院長に教わった通り、来た道には短剣で木の幹に傷を付けてきているので、帰りはそれを丁寧にトレースしていく。ここは魔物もいる森、道に迷ったら死ぬのだ。この辺りは基本に忠実に慎重にやろうと決めている。

    ◇

 早足で街に戻り、夕陽に赤く染まった石畳を歩いて薬師ギルドを目指す。街は正式には『峻厳(しゅんげん)たる城市アンジュー』という名前で、王様が支配する王国となっている。街の作りは中世ヨーロッパ風になっており、建物は多くが石造りだ。ごつごつとした壁の岩肌が夕陽に照らされて陰影をつくり、実に美しい。カーン、カーンと遠くで教会の鐘が鳴っている。早く帰らないと院長が心配してしまう。

 裏通りにある薬師ギルドに入ると、壁には薬瓶がずらりと並び、カウンターの向こうには壁一面に小さな引き出しのついた棚が備えてあった。漢方薬っぽい匂いが漂う。たくさんの種類の薬が製造され、売られているのだろう。

「あら、僕、どうしたの?」
 受付の女性がにこやかに声をかけてくる。
 髪の毛をお団子にまとめ、眼鏡をかけた理知的な女性だ。俺に向けてかがんだ時に白衣のなかで豊満な胸が揺れた。

「薬草を採ってきたので買い取って欲しいんです」
 俺はちょっと顔を赤らめながら背伸びして、バッグの中から取ってきた薬草を出して見せる。

「あら! これ、マジックマッシュルームじゃない!」
 驚く受付嬢。
「買い取ってもらえますか?」
「もちろん、大丈夫だけど……僕が自分で採ったの?」
 困惑の目で俺を見る。
「マジックポーションの材料ですよね。僕詳しいんです。さっき森で採ってきました」
 俺はそう言ってにっこりと笑った。
「うーん、親御さんは何て言ってるの?」
 まぁ、そう聞くのは仕方ないだろう。
「僕に親はいません」
 そう言って、うつむくしぐさを見せた。
「あ、それは……ごめんなさいね」
 聞いちゃいけないことを聞いちゃった、と焦る受付嬢。
 孤児というのはこういう時はいいのかもしれない。

 その後、ギルドの登録証を作ってもらい、買取をしてもらった。