自宅で寝てても経験値ゲット!~転生商人が最強になってムカつく勇者をぶっ飛ばしたら世界の深淵に

「あ、税金の書類とか……書かないといけないから……」
 そう言って立ち上がる。
「税金は急がなくていいよ。無理しないでね」
 俺は元気のないドロシーの顔を見ながらいたわる。
 だが、ドロシーはうつむいて黙り込んでしまった。
 嫌な静けさが広がる。
「何かあった?」
 俺はドロシーに近づき、中腰になってドロシーの顔を覗き込む。
 ドロシーはそっと俺の袖をつかんだ。
「……。」
「何でも……、言ってごらん」
 俺は優しく言う。
「怖いの……」
 つぶやくようにか細い声を出すドロシー。
「え? 何が……怖い?」
「一人でいると、昨日のことがブワッて浮かぶの……」
 ドロシーはそう言って、ポトッと涙をこぼした。
 俺はその涙にいたたまれなくなり、優しくドロシーをハグした。
 ふんわりと立ち上る甘く優しいドロシーの香り……。

「大丈夫、もう二度と怖い目になんて絶対()わせないから」
 俺はそう言ってぎゅっと抱きしめた。
「うぇぇぇぇ……」
 こらえてきた感情があふれ出すドロシー。
 俺は優しく銀色の髪をなでる。
 さらわれて男たちに囲まれ、服を破られた。その絶望は、推し量るには余りある恐怖体験だっただろう。そう簡単に忘れられるわけなどないのだ。
 俺はドロシーが泣き止むまで何度も何度も丁寧に髪をなで、また、ゆっくり背中をさすった。
「うっうっうっ……」
 ドロシーの嗚咽の声が静かに暗い店内に響いた。

       ◇

 しばらくして落ち着くと、俺はドロシーをテーブルの所に座らせて、コーヒーを入れた。
 店内に香ばしいコーヒーの香りがふわっと広がる。

 俺はコーヒーをドロシーに差し出しながら言った。
「ねぇ、今度海にでも行かない?」
「海?」
「そうそう、南の海にでも行って、綺麗な魚たちとたわむれながら泳ごうよ」
 俺は微笑みながら優しく提案する。
「海……。私、行ったことないわ……。楽しいの?」
 ドロシーはちょっと興味を示し、俺を見た。
「そりゃぁ最高だよ! 真っ白な砂浜、青く透き通った海、真っ青な空、沢山のカラフルな熱帯魚、居るだけで癒されるよ」
 俺は身振り手振りでオーバーなジェスチャーをしながら頑張って説明する。

「ふぅん……」
 ドロシーはコーヒーを一口すすり、クルクルと巻きながら上がってくる湯気を見ていた。

「どうやって行くの?」