俺は両手のひらで頬をパンパンとはたくと覚悟を決めた。俺は今度こそ人生成功するのだ。崖ぐらいで日和(ひよ)っていられないのだ。俺は崖にとりつき、ひょいひょいと登り始めた。

 子供の身体は軽い分、こういう時は有利ではあるが、それでも落ちたら死ぬのだ。俺は下を見て、予想以上の高さに心臓がキュッとする。
 何度も諦めそうになったが、徐々に体のホールド方法が分かってきて、最後にはなんとかたどり着くことができた。
 短剣で薬草を根元から丁寧に採集し、バッグに突っ込む。思わずにやけてしまう。きっと銀貨1枚くらい……日本円にして1万円くらいにはなるに違いない。
 だが、今度は降りなければならない。降りるのは登る何倍も難しい。チラッと下を見ると地面ははるか彼方下だ。俺は泣きそうになりながら丁寧に一歩ずつ降りていく。お金を稼ぐというのは命懸けなのだ……。
 ゲームばかりやっていたから体の動かし方が良く分からない。せめてボルダリングくらいやっておけばよかった。後悔しながら一歩一歩冷や汗垂らしながら降りていく。
 どの位時間がかかっただろうか? 俺はようやく安心できる高さにまで降りてくることができた。
 ふぅ……、良かった良かった……
 と、気を抜いた瞬間だった。足元の岩が崩れ、俺は間抜けに落ちて行く……。

「ぐわぁ!」
 思いっきりもんどりうって転がる俺。
 安心した瞬間が一番危険である。俺は身をもって学ばされた。
 ゴロゴロと転がり、小川に落ちる寸前でようやく止まった。

「いててて……」
 身体をあちこち打ってしまった。ひじから血も出ている。死ななかっただけましだが、痛い……。
 体を起こそうとすると、目の前の倒木の下にプックリとした可愛いキノコが生えているのを見つけた。見慣れない形をしている……。
 何の気なく鑑定をかけてみると、なんと★5だった。

「ええっ!?」


マジックマッシュルーム レア度:★★★★★
マジックポーション(MP満タン)の原料


「キタ――――!」
 ケガの功名である。
 これは高く売れるんじゃないだろうか?
 俺はケガの痛みなど全部吹っ飛び、飛び上がって思いっきりガッツポーズ。

「やったぞ! いける! いけるぞぉ!」
 俺は思わず叫び、そして大きく笑った。
 フリーターでゲームに逃げていた俺は今、異世界で新たな人生をつかみ取った。