自宅で寝てても経験値ゲット!~転生商人が最強になってムカつく勇者をぶっ飛ばしたら世界の深淵に

 店の中でドロシーがクルクルと踊っている。フラメンコのように腕を高く掲げ、そこから指先をシュッと引くとクルックルッと回転し、銀髪が煌めきながらファサッ、ファサッと舞う。そして白い細い指先が、緩やかに優雅に弧を描いた。
 美しい……。俺はウットリと見ていた。

 いきなり誰かの声がする。
「旦那様! ドロシーが幌馬車に乗ってどこか行っちゃいましたよ!」
 アバドンだ。いい所なのに……。
「ドロシー? ドロシーなら今ちょうど踊ってるんだよ! 静かにしてて!」
「え? いいんですかい?」
「いいから、静かにしてて!」
 俺はアバドンに怒った。

 ドロシーはさらに舞う。そして、クルックルッと舞いながら俺のそばまでやってきてニコッと笑う。
 ドロシー、綺麗だなぁ……。
 幌馬車になんか乗ってないよ、ここにほら、こんなに美しいドロシーが……。
 すると、ドロシーが徐々に黒ずんでいく……。
 え? ドロシーどうしたの?
 ドロシーは舞い続ける、しかし、美しい白い肌はどす黒く染まっていく。
 俺が驚いていると、全身真っ黒になり……、手を振り上げたポーズで止まってしまった。
「ド、ドロシー……」
 俺が近づこうとした時だった、ドロシーの腕がドロドロと溶けだす。

 え!?

 俺が驚いている間にも溶解は全身にまわり、あっという間に全身が溶け、最後にはバシャッと音がして床に溶け落ちた……。

「ドロシー!!」
 俺は叫び、その声で目が覚め、飛び起きた。
 はぁはぁ……冷や汗がにじみ、心臓がドクドクと高鳴って呼吸が乱れている。

「あ、夢か……」
 俺は髪の毛をかきむしり、そして大きくあくびをした。
「そらそうだ、うちの店、踊れるほど広くないもんな……」
 そう言えば……、アバドンが何か言ってたような……。幌馬車? なぜ?
 俺はアバドンを思念波で呼んでみる。
「おーい、アバドン、さっき何か呼んだかな?」
 アバドンは、すぐにちょっとあきれたような声で返事をする。
「あ、旦那様? ドロシーが幌馬車に乗ってどこかへ出かけたんですよ」
「どこへ?」
 アバドンはちょっとすねたように言う。
「知りませんよ。『静かにしてろ』というから放っておきましたよ」
 俺は真っ青になった。ドロシーが幌馬車で出かけるはずなどない。(さら)われたのだ!