自宅で寝てても経験値ゲット!~転生商人が最強になってムカつく勇者をぶっ飛ばしたら世界の深淵に

「いいかい、これを肌身離さず身に着けていて。お守りになるから」
 おれはドロシーの目をしっかりと見据えて言った。
「うん……分かった……」
 ドロシーは()れぼったい目で答える。

「それから、絶対に一人にならないこと。なるべく俺のそばにいて」
「分かったわ。ず、ずっと……、一緒にいてね」
 ドロシーは少し照れてうつむいた。








2-2. 攫われた少女

 それから一週間くらい、何もない平凡な日々が続いた。最初のうちは俺からピッタリと離れなかったドロシーも、だんだん警戒心が緩んでくる。それが勇者の狙いだとも知らずに……。

 チュンチュン!
 陽が昇ったばかりのまだ寒い朝、小鳥のさえずる声が石畳の通りに響く。
「ドロシーさん、お荷物です」
 ドロシーの家のドアが叩かれる。
 朝早く何だろう? とそっとドアを開けるドロシー。
 ニコニコとした、気の良さそうな若い配達屋のお兄さんが立っている。
「『星多き空』さん宛に大きな荷物が来ていてですね、どこに置いたらいいか教えてもらえませんか?」
「え? 私に聞かれても……。どんなものが来てるんですか?」
「何だか大きな箱なんですよ。ちょっと見るだけ見てもらえませんか? 私も困っちゃって……」
 お兄さんは困り果てたようにガックリとうなだれる。
「分かりました、どこにあるんですか?」
 そう言ってドロシーは二階の廊下から下を見ると、(ホロ)馬車が一台止まっている。
「あの馬車の荷台にあります」
 お兄さんはニッコリと指をさす。
 ドロシーは身支度を簡単に整えると、馬車まで降りてきて荷台を見る。
「どれですか?」
「あの奥の箱です。」
 ニッコリと笑うお兄さん。
「ヨイショっと」
 ドロシーは可愛い声を出して荷台によじ登る。
「どの箱ですか?」
 ドロシーがキョロキョロと荷台の中を見回すと、お兄さんは
「はい、声出さないでね」
 嬉しそうに鈍く光る短剣をドロシーの目の前に突き出した。
「ひっひぃぃ……」
 思わず尻もちをつくドロシー。
「その綺麗な顔、ズタズタにされたくなかったら騒ぐなよ」
 そう言って短剣をピタリとドロシーの(ほお)に当て、(いや)らしい笑みを浮かべた……。

        ◇

 俺は夢を見ていた――――