扉の中は薄暗い石造りのホールになっていた。壁の周りにはいくつもの魔物をかたどった石像があり、それぞれにランプがつけられ、不気味な雰囲気だ。
 皆、恐る恐る俺について入ってくる。

 全員が入ったところで自動的にギギギーッと扉が閉まる。
 もう逃げられない。

 すると、奥の玉座の様な豪奢な椅子の周りのランプが、バババッと一斉に点灯し、玉座を照らした。
 何者かが座っている。

「グフフフ……。いらっしゃーい」
 不気味な声がホール全体に響く。

「ま、魔物がしゃべってるわ!」
 エレミーがビビって俺の腕にしがみついてきた。彼女の甘い香りと豊満な胸にちょっとドギマギさせられる。

「しゃべる魔物!? 上級魔族だ! 勇者じゃないと倒せないぞ!」
 エドガーは絶望をあらわにする。

「ガハハハハハ!」
 不気味な笑い声がしてホール全体が大きく振動した。
「キャ――――!!」
 エレミーが耳元で叫ぶ。俺は耳がキーンとしてクラクラした。

 ドロテは、
「この魔力……信じられない……もうダメだわ……」
 そう言って顔面蒼白になり、ペタンと座り込んでしまう。

 皆、戦意を喪失し、ただただ、魔物の恐怖に飲まれてしまった。
 俺からしたらただの茶番にしか見えないのだが。

 でも、この声……どこかで聞いたことがある。
 おれは薄暗がりの中で玉座の魔物をジッと見た。

「あれ? お前何やってんだ?」
 なんと、そこにいたのはアバドンだった。

「え? あ? だ、旦那様!」
 アバドンは俺を見つけると驚いて玉座を飛び降りた。

「早く言ってくださいよ~」
 アバドンは嬉しそうに、俺に駆け寄ってきた。

「なにこれ?」
 俺がいぶかしそうに眉をひそめて聞くと、

「いや、ちょっと、お仕事しないとワタクシも食べていけないもので……」
 恥ずかしそうに、何だか生臭いことを言う。

「あ、これ、アルバイトなの?」
「そうなんですよ、ここはダンジョンの80階、いいお金になるんです!」
 アバドンは嬉しそうに言う。
「まぁ、悪さしてる訳じゃないからいいけど、なんだか不思議なビジネスだね」
「その辺はまた今度ゆっくりご説明いたします。旦那様とは戦えませんのでどうぞ、お通りください」
 そう言って、奥のドアを手のひらで示した。するとギギギーッとドアが開く。

「え? これはどういうこと?」