「旦那様に害をなす者が近づいてきたら教えるとか、戦うとか……そもそもわたくしこう見えても世界トップクラスに強いはずなんです。旦那様の強さがそれだけ飛びぬけているということなんですが」
「うーん、でも、お前すぐに裏切りそうだからな……」
「じゃ、こうしましょう! 奴隷契約です。奴隷にしてください。そうしたら旦那様を決して裏切れないですから!」
 奴隷か……。確かにそんな契約魔法があったことを思い出した。奴隷にすることで悪さしないのであれば殺す必要もない……か。
 俺はリュックから魔法の小辞典を取り出すと、呪文を調べた。何だか面倒くさそうではあるが、レベル千の知力であれば時間かければできないことはなさそうだ。どこかで役に立つかもしれないし、奴隷は悪くない選択だろう。

「わかった、じゃぁこれからお前は俺の奴隷だ。俺に害なさないこと、悪さをしないこと、呼んだらすぐ来ること、分かったな!」
「はいはい、もちろんでございます。このアバドン、旦那様のようなお強い方の奴隷になれるなんて幸せでございます!」
 と、身体の方が手を合わせながら嬉しそうに言った。

 俺は床にチョークで丁寧に魔法陣を描き、首を持ったアバドンを立たせると、小辞典を見ながら呪文を唱え、俺の血を一滴アバドンに飲ませた。
 直後、魔法陣が光り輝き、アバドンは光に包まれる……。
 やがて光が落ち着いてくると、アバドンの首筋に炎をかたどったような入れ墨が浮かび上がった。
 アバドンは恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべている……。

「これで、いいのかな?」
「完璧です、旦那様! ありがとうございます!」
 感激するアバドン。
 奴隷にして感激してもらってもなぁ、とちょっと複雑な気分だ。
 でもこれでアバドンは悪さができなくなった。悪さをしようとすると入れ墨が燃え出して焼き殺してしまうのだ。また、奴隷との間には魔力の通話回線が繋がるので、離れていても会話ができるようになるはずだ。どうやるかは後で確認しよう。

 と、ここで、商談に行く途中だったことを思い出した。
「この遺跡に他に何か宝物はあるか?」
 俺が聞くと、
「いや、他の宝はみな盗掘に遭って持ってかれてます、旦那様」
「そうか……残念だな。じゃ、俺は仕事があるんで」
 そう言って俺は★5の武器をリュックにしまい、出口へと歩き出した。