『ドロシーに幸せが来ますように……、嫌なこと全部忘れますように……』
 俺は淡々と祈った。

        ◇

「ハーイ! 朝よ起きて起きて!」
 衝撃の夜は明け、アラフォーの、かっぷくのいい院長のおばさんが、あちこちの部屋に声をかけて子供たちを起こしていく。

「ふぁ~ぁ」
 あの後ベッドに戻ったが、ちょっと衝撃が大きく、しばらく寝付けなかったので寝不足である。
 俺は目をこすりながら院長を鑑定する。


マリー=デュクレール 孤児院の院長 『闇を打ち払いし者』
魔術師 レベル89


「えっ!?」
 俺は一気に目が覚めた。
 何だこのステータスは!? あのおばさん、称号持ちじゃないか!
 今までただの面倒見のいいおばさんだとしか認識してなかったが、とんでもない。一体どんな活躍をしたらこんな称号が付くのだろうか? 人は見かけによらない、とちょっと反省した。

 食堂に集まり、お祈りをして朝食をとる。ドロシーはまぶたが腫れて元気ない様子だったが、それでも俺を見ると小さく手を振って微笑んでくれた。後で兵士に手紙を書いて、今後一切我々に近づかないようにくぎを刺しておこうと思う。彼も大事にはしたくないだろう。兵士が孤児の少女を襲うとかとんでもない話だ。
 また、院長にもちゃんと報告しておこう。ただ、詳細に言うと鑑定スキルのことを話さなくてはならなくなるので、あくまでも倉庫の周りを男が歩いていたので大声で追い払ったとだけ伝えておく。

「あれ? ユータ食べないの?」
 そう言ってアルが俺のパンを奪おうとする。俺はすかさず伸びてきた手をピシャリと叩いた。
「欲しいなら銅貨二枚で売ってやる」
「何だよ、俺から金取るのか?」
 アルは膨れて言う。
「ごめんごめん、じゃ、このニンジンをやろう」
 俺が煮物のニンジンをフォークで取ると、
「ギョエー!」
 と言って、アルは自分の皿を後ろに隠した。
 
 食事の時間は(にぎ)やかだ、悪ガキどもがあちこちで小競り合いをするし、小さな子供はぐずるし、まるで戦場である。
 俺も思い出せば、昨日までは結構暴れて院長達には迷惑をかけてきた。これからは世話する側に回らないとならん。中身はもう20代なのだから。