何をするのかと思ったら、そこに飛び込もうとする。逃げるつもりのようだ。しかし、魔人を逃がすわけにはいかない。俺は素早くアバドンの足をつかむとズボッと壁から引き抜いて、そのまま床にビターンと思いっきり打ち付けた。

「ゴフッ!」
 アバドンは口から泡を吹きながらピクピクと痙攣している。





1-14. 不思議な奴隷

 これほどまでに叩きのめしているのに、一向に死なない。
 俺はアバドンのしぶとさに嫌気がさし、武器を使うことにした。

 割れた台座に刺さってる★5の剣を引き抜き、刀身の具合を見る。千年前の剣だけあって、少しやぼったく、厚みがあるずんぐりとしたフォルムであるが、刃はまだ斬れそうだ。
 俺は剣を軽くビュッビュッと振り、肩慣らしをすると、アバドンめがけて振りかぶった……。
 と、その時、アバドンが、
「こ、降参です……まいった……」
 と、口を開く。
 魔人の言うことなど聞いてもロクなことにならない。俺は構わず剣を振り下ろした。

 ザスッ

 派手な音がして首が一刀両断され、頭がゴロゴロと転がった。
 首を切り落とすなんてできればやりたくなかったが、悪さをする魔人である以上仕方ない。冥福くらい祈ってやろう。

 ところが……。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ……」
 生首が語りかけてくる。首を切り離しても死なない、そのしぶとさに俺は唖然(あぜん)とした。
「しょ、少年、いや、旦那様、私の話を聞いてください」
 アバドンの首は切々と訴える。
「何だよ、何が言いたい?」
 俺はその執念に折れて聞いてみることにした。
「旦那様の強さは異常です。到底勝てません。参りました。しかし、このアバドン、せっかく千年の辛い封印から自由になったのにすぐに殺されてしまっては浮かばれません。旦那様、このワタクシめを配下にしてはもらえないでしょうか?」
 目に涙を浮かべて訴える生首。
「俺は魔人の部下なんていらないんだよ」
 そう言ってまた、剣を振りかぶった。
「いやいや、ちょっと待ってください。わたくしこう見えてもメチャクチャ役に立つんです。本当です」
 哀願するアバドン。

「例えば?」