「このやろう……俺を怒らせたな!」
アバドンは、口から紫色の液体をだらだらと垂らしながらわめく。
そして、「ぬぉぉぉぉ!」と、全身に力を込め始めた。ドス黒いオーラをブワっとまき散らしながらメキメキと盛り上がっていくアバドンの筋肉。はじけ飛ぶタキシード……。
そして最後に「ハッ!」と叫ぶと、全身が激しく光り輝いた。
「うわぁ……」
いきなりのまぶしさに目がチカチカする。
光が収まるのを待って、そっと目を開けてみると、そこには背中からコウモリに似た大きな翼を生やした、筋肉ムキムキで暗い紫色の大男が浮いていた。
大男は、
「見たか、これが俺様の本当の姿だ。もうお前に勝機はないぞ! ガッハッハ!」
と、大きく笑う。
しかし、俺には先ほどと変わらず、脅威には感じなかった。
「死ねぃ! メガグラヴィティ!」
アバドンは叫びながら俺に両手のひらを向けた。
すると、俺の周りに紫色のスパークがチラチラと浮かび、全身に重みがずっしりとのしかかった。
「二十倍の重力だ、潰れて死ね!」
と、嬉しそうに叫ぶアバドン。
「なるほど、これが二十倍の重力か……」
俺は腕を組み、涼しい顔でうなずく。
「あ、あれ?」
焦るアバドン。しかし、重ねて上位魔法を撃ってくる。
「百倍ならどうだ! ギガグラヴィティ!!」
さらなる重みがズシッと俺の身体にかかり、足元の石畳がバキッと音を立てて割れた。
体重百倍ということは俺には今7トンの重しがかかっていることになる。しかし、レベル千の俺にしてみたら7トンなどどうでもいい数値だった。
「つまらん攻撃だな」
俺はそう言って、再度瞬歩でアバドンに迫ると思い切り右のパンチを振り抜いた。ひしゃげるアバドンの顔。
吹き飛ばされ、壁にぶつかり、戻ってきたところを蹴り上げて、今度は左パンチ。また、戻ってきたところを右のフックで打ち倒した。
「ぐはぁぁぁ……」
情けない声を出しながらもんどり打って転がるアバドン。
そして、俺を怯えた目で見つめると、
「ば、化け物だぁ……」
そう言いながら間抜けに四つん這いで逃げ出し、壁に魔法陣を描いた。