すると、パキッと音がして台座の石がパックリと割れた。剣もまさか押し込まれるとは想定外だろう。うっしっし!
 
 無邪気に喜んでいたら、黒い霧がプシューっと噴き出してきた。

「うわぁ!」
 俺は思わず逃げ出す。

「グフフフ……」
 嫌な笑い声が小部屋に響いた。
 振り返ると、黒い霧の中で何かが浮かんでいる……。明らかにまともな存在ではなさそうだ。さて、どうしたものか……。

 やがて霧が晴れるとそいつは姿を現した。それはタキシードで蝶ネクタイの痩せて小柄な魔人だった。
 何だか嫌な奴が出てきてしまった……。

 魔人は大きく伸びをすると、嬉しそうに言った。
「我が名はアバドン。少年よ、ありがとさん!」

 魔人はアイシャドウに黒い口紅、いかにも悪そうな顔をしている。
「お前は悪い奴か?」
 俺が聞くと、
「魔人は悪いことするから魔人なんですよ、グフフフ……」
 と、嫌な声で笑った。
「じゃぁ、退治するしかないな」
 俺はため息をついた。こんなのを野に放つわけにはいかない。

「少年がこの私を退治? グフフフ……笑えない冗談で……」
 俺は瞬歩で一気に間を詰めると、思いっきり顔を殴ってやった。
「ぐはぁ!」
 吹き飛んで壁にぶつかり、もんどり打って転がるアバドン。
 
 不意を突かれたことに怒り、
「何すんだ! この野郎!!」
 ゆっくりと起き上がりながら烈火のごとく俺をにらむ。

 レベル千の俺のパンチは、人間だったら頭が粉々になって爆散してしまうくらいの威力がある。無事なのはどういう理屈だろうか? さすが魔人だ。

 アバドンは、指先を俺に向けると何やら呪文をつぶやく。
 まぶしい光線のようなものが出たが、そんなノロい攻撃、当たるわけがない。俺は直前に瞬歩で移動するとアバドンの腹に思いっきりパンチをぶち込む。
「ぐふぅ!」
 と、うめきながら吹き飛ばされるアバドン。
 そして浮き上がってるアバドンに瞬歩で迫った。アバドンもあわてて防御魔法陣を展開する。
 目の前に展開される美しい金色の魔法陣……。
 しかし、そんなのは気にせず、右フックで力いっぱい顔面を振り抜いた。

「フンッ!」

 魔法陣は打ち砕かれ、ゴスッと鈍い音がしてアバドンは再度壁に吹き飛び、また、もんどり打った。
 しかし、まだ魔石にはならない。しぶとい奴だ。手ごたえはあったと思ったのだが……。