その日、俺は武器の新規調達先開拓のため、二百キロほど離れた街へ魔法で飛びながら移動していた。レベルは千を超え、もはや人間の域を超えていた。人族最強級の勇者のレベルが二百程度なのだから推して知るべしである。この域になると、日常生活には危険がいっぱいだ。ドアノブなど普通にひねったらもげてしまうし、マグカップの取っ手など簡単にとれてしまう。こないだテーブルを真っ二つに割った時はさすがに怒られた。単に頬杖(ほおづえ)をついただけなのだが……。
 走れば時速百キロは超えるし、水面も普通に走れるし、一軒家くらい普通に飛び越せる。商人が目立ってもしかたないので、みんなには秘密だが、身近な人は気づいてるかもしれない。
 魔法も一通り全てマスターし、移動はもっぱら魔法で飛んで行くようになった。二百キロくらいの距離なら15分もあれば飛んで行けてしまう。すごい便利だし楽しい。しかし、こんなことができるのは世界でも俺だけなので、飛ぶ時は隠ぺい魔法で目立たないようにして飛んでいる。
 
 大きな川を越え、森を越え、目の前に雪の積もった山脈が現れてきた。山脈を越えるため、高度を上げていく……。
 雲の高さまで上がってきたので、雲の層を抜けるべく雲の中を一気に急上昇していく。何も見えない真っ白な視界に耐えているとバッと急に青空が広がった。澄みとおる青い空燦燦(さんさん)と照り付ける太陽、一面に広がる雲海……、おぉ……、なんて爽快だろうか!

「ヒャッホー!」
 俺は思わず叫び、調子に乗ってクルクルと(きり)もみ飛行をした。やっぱり自由に飛ぶって素晴らしい。異世界に来てよかった!

 速度は時速八百キロを超えている。前面には魔法陣のシールドを展開しているが、さすがにこの高度では寒い。俺は毛糸の帽子を取り出して目深にかぶり、手をポケットに突っ込んだ。
 以前、調子に乗って音速を超えてみたが、衝撃波がシャレにならなくて、まともに息ができなくなったので、今は旅客機レベルの速度で抑えている。そのうち、余裕が出来たら宇宙船のコクピットみたいのを作って、ロケットのように宇宙まで吹っ飛んでいきたい。宇宙旅行も楽しそうだし、ここが地球サイズの星なら裏側まで20分だ。チートは夢が広がる。

 そろそろ山脈を越えたはずなので高度を下げていく……。