「なんだよ! 俺は客だぞ! 金払うって言ってるじゃねーか!」
 バランドはドロシーをにらみつけ、威圧的に喚き散らす。
「いや、私は今日は『お試し』なので……」
「では、俺と『お試し』! 決まりな!」
 バランドはいやらしい笑みを浮かべながらドロシーに迫る。

 俺はダッシュでドロシーの所へ行くと、耳元で、
「ユータだよ。俺に合わせて」
 と、ささやいて、バランドとドロシーの間に入った。

「バランド様、この娘はすでに私と遊ぶ約束をしているのです。申し訳ありません」

 いきなりの男の登場にバランドは怒る。
「何言ってるんだ! この女は俺がヤるんだよ!」
「可愛い女の子他にもたくさんいるじゃないですか」
 俺はニッコリと対応する。店外に引っ張り出してボコボコにしてもいいんだが、あまり店に迷惑をかけてもいけない。

「なんだ貴様は! 平民の分際で!」
 そう叫ぶと、バランドはいきなり俺に殴りかかった。
 しかし、バランドのレベルは二十六。俺のレベルは八百を超えている。二十六が八百を殴るとどうなるか……、バランドの右フックが俺の頬に直撃し……、果たしてバランドのこぶしが砕けた。

「ぐわぁぁ!」
 こぶしを痛そうに胸に抱え、悲痛な叫びを上げるバランド。
 俺はニヤッと笑うと、バランドの耳元で
「裏カジノ『ミシェル』のことをお父様にお話ししてもよろしいですか?」
 しれっとそう言った。男爵家が裏カジノなんてさすがにバレたらまずいはずだ。きっとこのドラ息子の独断でやっているに違いない。

「な、なぜお前がそれを知っている!」
 目を見開き、ビビるバランド。
「もし、彼女から手を引いてくれれば『ミシェル』の事は口外いたしません。でも、少しでも彼女にちょっかいを出すようであれば……」
「わ、分かった! もういい。女は君に譲ろう。痛たたた……」
 そう言いながら、痛そうにこぶしをかばいつつ逃げ出して行った。
「ありがとうございます」
 俺はうやうやしくバランドの方にお辞儀をした。
 そして、ドロシーの耳元で、
「ドロシー、もう十分だろ、帰るよ」
 と、ささやいた。

 店主がやってきて、
「え? どうなったんですか?」
 と、心配そうに聞いてくる。
「バランド様にはご理解いただきました。お騒がせして申し訳ありません。彼女と遊ぶにはこれで足りますか?」