前世では部屋にこもって無様(ぶざま)に死んだ俺が今、空を自由に飛んでこの美しい風景を独り占めにしている。俺は胸が熱くなって涙がポロリとこぼれた。

 俺はこの景色を一生忘れないだろう。
 今度こそ、絶対成功してやるのだ。この人類最高峰の力を駆使してガッチリと幸せをつかみ取るのだ!

 俺は朝日にガッツポーズして気合を入れ、全魔力を使ってカッ飛んで行った。

        ◇

 しばらく飛ぶと海になり、小さな無人島を見つけたので、そこで魔法の確認を行ってみる。試しにファイヤーボールを全力で海に撃ってみた
 俺は院長に教わった通りに目をつぶり、深呼吸をして、意識を心の底に落としていく。そして、心にさざめく魔力の揺らめきの一端に意識を集中させ、それを右腕へグイーンとつなげた。魔力が腕を伝わって流れてくる。俺はほとばしってくる魔力に合わせ、叫んだ。

「ファイヤーボール!」
 魔力は俺の手のひらで炎のエネルギーとなって渦巻き、巨大な火の玉を形成する。直後、すさまじい速度ですっ飛んでいき、海面に当たって大爆発を起こした。
 激しい閃光の直後、衝撃波が俺を襲う。

「ぐわぁ!」
 何だこの威力は!?

 海面が沸騰し、激しい湯気が立ち込め、ショックで魚がプカプカと浮かんでくる。
 俺は院長が言っていた『大いなる力は大いなる責任を伴う』という言葉を思い出し、ゾッとしてしまった。すでに俺は、気軽に爆弾をポンポン放ることができる危険人物になってしまっているのだ。
 こんな力、誰にも知られてはならない。知られてしまったらきっとこの力を利用しようとする連中が出てきてしまうだろう。そうしたらきっとロクな事にならない。
 俺は人前では魔法を使わないようにしようと心に決めた。

 職業が『商人』なので高度な魔法は無理かと思っていたが、どうもそんなことはなかった。MPや魔力、知力の伸びが低いだけで、頑張れば普通に魔法は使えたのだ。もちろん、経験不足で発動までの時間が長かったり、精度がいまいちであり院長には全然及ばないが、威力だけで言うならばステータス通りの威力は出るらしい。
 つまり、同レベルの魔術師には敵うべくもないが、レベルが半分くらいの魔術師には勝てるかもしれない。という事は、レベルをガンガン上げ続けたら世界最強の魔術師になってしまうということだ。