目をつぶり、俺は今までの人生を振り返った。特に無様に死んだ前世……。思い返せば俺はそこそこいい大学に合格してしまったことで慢心し、満足してしまい、向上心を失ったのが敗因だったかもしれない。結果、就活に失敗し、人生転落してしまった。人は常に向上心を持ち、挑戦をし続けない限りダメなのだ。たとえそれが悲劇を呼ぶとしても、前に進む事を止めてはならない。

 俺は院長をまっすぐに見つめ、言った。
「私は、やらない後悔よりも、やった後での後悔を選びたいと思います」

 院長はそれを聞くと、目をつぶり、ゆっくりとうなずいた。
「覚悟があるなら……いいわ」
「忠告を聞かずにすみません。でも、この人生、できること全部やって死にたいのです」
 俺はそう言い切った。
「それじゃ、ビシビシしごくわよ!」
 院長が今まで見たこと無いような鋭い目で俺を見た。
「わ、わかりました。お願いします」
 俺はちょっとビビりながら頭を下げた。

 こうして俺は魔法を習うことになり、毎晩、院長室へ秘かに通うようになった。

       ◇

 鬼のしごきを受けつづけること半年――――。

 一通りの初級魔法を叩きこまれ、俺は卒業を迎えた。ファイヤーボールも撃てるし、空も飛べるし、院長には感謝しかない。
 そして……。日々上がる俺のレベルはついに二百を超えていた。一般人でレベル百を超える人がほとんどいない中、その倍以上のレベルなのだ。多分、人間としてはトップクラスの強さになっているだろう。

 俺は翌日、朝早く孤児院を抜け出すとまだ薄暗い空へと飛んだ。実は、まだ、魔力を全力で使ったことがなかったので、人里離れた所で試してみようと思ったのだ。レベル二百の魔法って、全力出したらどんなことになるのだろうか?
 隠ぺい魔法をかけて、見つからないようにし、ふわりと街の上空を飛んでみる。最初は怖かったが徐々に慣れてきたので、速度を上げてみる。
 朝もやの中、どんどんと小さくなる孤児院や街の建物……。朝の冷たい風の中、俺はどんどんと高度を上げていく。
 すると、いきなりもやを抜け、朝日が真っ赤に輝いた。
 ぽつぽつと浮かぶ雲が赤く輝き、雲の織りなす影が光の筋を放射状に放ち、まるで映画のワンシーンのような幻想的な情景を浮かび上がらせていた。

「うわぁ……、綺麗……」

 神々しく輝く真紅の太陽が俺を照らす。