「あなたがまだ赤ちゃんの頃の話だからね。それで、私はファイヤーボールをポンポン撃ってたわ。魔力が尽きたらポーションでチャージしてまたポンポンと……」
 院長は窓の外を眺めながら淡々と言った。
「もう大活躍よ。城壁から一方的に放たれるファイヤーボール……、多くの魔物を焼いたわ。司令官はもっと慎重にやれって指示してきたけど、大活躍してるんだからと無視したの。天狗になってたのよね……」
「そして……、特大のファイヤーボールを放とうとした瞬間、矢が飛んできて……、肩に当たったわ。倒れながら放たれた特大の火の玉……どうなったと思う?」
「え? どうなったんですか?」
「街の中の……、木造の住宅密集地に……落ちたわ……」
 院長は震えながら頭を抱えた。
「うわぁ……」
「多くの人が亡くなって……しまったの……」
 俺はかける言葉を失った。
 院長はハンカチで目頭を押さえながら言った。
「魔物との戦いには勝ったし、矢を受けたうえでの事故だから不問にされ、表彰され、二つ名ももらったわ……。でも、調子に乗って多くの人を殺した事実は、私には耐えられなかったのよ。その事故で身寄りを失った子がここに入るって聞いて、私は魔術師を引退してここで働き始めたの……。せめてもの罪滅ぼしに……」
 沈黙の時間が流れた……。俺は一生懸命に言葉を探す。

「で、でも、院長の活躍があったから街は守られたんですよね?」
「そうかもしれないわ。でも、人を殺した後悔って理屈じゃないのよ。心が耐えられないの」
 そう言われてしまうと、俺にはかける言葉がなかった。
「いい、ユータ君。魔法は便利よ、そして強力。でも、『大いなる力は大いなる責任を伴う』のよ。強すぎる力は必ずいつか悲劇を生むわ。それでも魔法を習いたいかしら?」
 院長は俺の目をまっすぐに見つめる。
 なるほど、これは難問だ。俺は今まで『強くなればなるほどいい』としか考えてこなかった。しかし、確かに強い力は悲劇をも呼んでしまう。
 鑑定スキルがあれば商売はうまくいく。きっと一生食いっぱぐれはないだろう。それで十分ではないだろうか?
 なぜ俺は強くなりたいのだろう?
 俺はうつむき、必死に考える。

「教えるのは構わないわ。あなたには素質がありそう。でも、悲劇を受け入れる覚悟はあるかってことなのよ」
 院長は淡々と言う。