「いやいや、違うのよ! 本当はあんなに勇気があって頼れる子だって分かって、私、反省したの……」
「ははは、反省なんてしなくていいよ。実際悪ガキだったし」
 俺は苦笑いしながら軽く首を振った。
「でね……。私、何か手伝えることないかなって思って……」
「え?」
 俺はドロシーの方を見た。

「ユータが最近独り立ちしようと必死になってるの凄く分かるの。私、お姉さんでしょ? 手伝えることあればなぁって」
 なるほど、確かに手伝ってくれる人がいるのは心強い。ドロシーは賢いし、手先も器用だ。
「そしたら、武器の掃除をお願いできるかな? そこの剣とか持ち手や(つば)に汚れが残っちゃってるんだよね」
 おじいさんの剣は基本フリマの商品なので、クリーニングまでしっかりとやられている訳ではない。売るのであれば綺麗にしておきたい。
「分かったわ! この手のお掃除得意よ、私!」
 そう言ってドロシーは目を輝かせた。
「売れたらお駄賃出すよ」
「何言ってんの、そんなの要らないわよ!」
「いやいや、これは商売だからね。もらってもらわないと困るよ。ただ……小銭だけど」
「うーん、そういうものかしら……分かった! 楽しみにしてる!」
 ドロシーは素敵な笑顔を見せた。
 そして、棚からブラシやら布やら洗剤をてきぱきと(そろ)えると、隣に座って磨き始めた。
 俺も淡々と研ぎ続ける。






1-8. 十二歳女神の福音

「これ、儲かるの?」
 ドロシーは手を動かしながら聞いてくる。
「多分儲かるし……それだけじゃなく、もっと夢みたいな世界を切り開いてくれるはずだよ」
「えー? 何それ?」
 ドロシーはちょっと茶化すように言う。
「本当さ、俺がこの世界全部を手に入れちゃうかもしれないよ?」
 俺はニヤッと笑う。
「世界全部……? 私も手に入っちゃう?」
 そう言ってドロシーは上目づかいで俺を見る。サラッと銀髪が揺れて、澄んだブラウンの瞳がキュッキュッと細かく動いた。
 十二歳とは思えない女の色香の片りんに俺はドキッとして、
「え? あ? いや、そういう意味じゃなくって……」
 と、しどろもどろになる。
「うふふ、冗談よ。男の子が破天荒な夢を語るのはいいことだわ。頑張って!」
 ニコッと笑って俺を見るドロシー。
「あ、ありがとう」
 俺は顔を赤くし、研ぐ作業に戻った。