自宅で寝てても経験値ゲット!~転生商人が最強になってムカつく勇者をぶっ飛ばしたら世界の深淵に

「急いで! 裸のままでごめん、時間がないんだ」
「ねぇ、アバドンさんは?」
 泣きそうな声で聞いてくる。
 俺はグッと言葉を飲み込み、
「大丈夫、彼なりに勝算があるんだ」
 と、嘘をついて涙を拭いた。

         ◇

 二人は必死に通路を駆け抜ける。そして、突き当りの壁をナイフで切ると飛び込んだ。
 俺は土の中を必死に切って前進を繰り返す。ヌチ・ギが屋敷内を探している間にエレベーターに入れれば俺たちの勝ちだ。アバドンの安否は気になるが、彼が作ってくれたチャンスを生かすことを今は優先したい。

 切りに切ってフェンスの断面が見えたところで上に出る。そっと顔を出すとエレベーターの前。さすが俺!

 俺は急いで飛び出してボタンを押す。
 扉がゆっくりと開く。これで奪還計画成功だ! 俺は切れ目からドロシーを引き上げる。

 ところが……、エレベーターの中から冷たい声が響いた。
「どこへ行こうというのかね?」
 驚いて前を向くと……、ヌチ・ギだった。
 青ざめる俺をヌチ・ギは思いっきり殴る。吹き飛ばされる俺。

「きゃぁ! あなたぁ!」
 ドロシーの悲痛な叫びが響く。

 一体なぜバレたのか……。さすが管理者、完敗である。
 俺は地面をゴロゴロと転がりながら絶望に打ちひしがれた。
 もうこうなっては打つ手などない。逃げるのは不可能だ。だが、殺されるのなら少しでもあがいてやろうじゃないか。
「お前、戦乙女(ヴァルキュリ)使ってラグナロク起こすんだってな、そんなこと許されるとでも思ってんのか?」
 俺はゆっくりと体を起こしながら、血の味が(あふ)れる口で叫んだ。
「ほう? なぜそれを?」
 ヌチ・ギは鋭い目で俺を刺すように見る。
「大量虐殺は大罪だ、お前の狂った行為は必ずや破滅を呼ぶぞ!」
 俺はまくしたてる。タラりと口から血が垂れる感触がする。
「はっはっは……、知った風な口を利くな! そもそも文明、文化が停滞してる人間側の問題なんだぞ、分かってるのか?」
「停滞してたら殺していいのか?」
「ふぅ……、お前は全く分かってない。例えば……そうだな。お前の故郷、日本がいい例だろう。日本も文明、文化が停滞してるだろ? なぜだと思う?」
 俺はいきなり日本の問題を突きつけられて動揺した。そんなの今まで考えたことなどなかったのだ。