自宅で寝てても経験値ゲット!~転生商人が最強になってムカつく勇者をぶっ飛ばしたら世界の深淵に

 俺は思わず広げて、そしてぎゅっと抱きしめた。ほのかにドロシーの匂いが立ち上ってくる……。
「待っててね……」
 俺はそうつぶやき、ゆっくりと大きくドロシーの香りを吸い込んだ。
 
 それから、動きやすそうな服に着替え、革靴を履き、靴紐をキュッと結んだ。
「よし! 行こう!」
 俺は立ち上がり、アバドンを見る。
「では王都まで参りますよ。ついてきてください」
 そう言うとアバドンは壁に金色に光る魔法陣を浮かべ、その中へ入っていく。
 俺も恐る恐る魔法陣の中に潜った。
 魔法陣の中は真っ暗闇で、上下もない無重力空間だった。アバドンは何か呪文をつぶやくと、向こうの方でピンク色に魔法陣が浮かび上がる。そして、俺の手を取ってそこまでスーッと移動した。

 アバドンはそっと魔法陣の向こうに顔を出し、辺りをうかがい……、言った。
「大丈夫です。行きましょう!」
 魔法陣を抜けるとそこは人気(ひとけ)のない(すさ)んだダウンタウンだった。
「旦那様こっちです」
 そう言いながらスタスタと歩き出すアバドン。
「これ、凄いね。いきなりヌチ・ギの屋敷に繋げないの?」
 追いかけながら聞いた。
「ヌチ・ギの作った魔法ですから、セキュリティかかってて使えないですね」
 アバドンは首を振る。
「そりゃそうか……」
「ヌチ・ギの屋敷まで二十分くらいです」
 アバドンの説明に俺は静かにうなずいた。
 憧れの王都に着いたが、治安はアンジューの街よりは悪そうだ。俺たちはチンピラなどの目に留まらないよう、静かに歩いた。

        ◇

 高級住宅地に入ってくると、豪奢な石造りの邸宅が続く。
「左側三軒目がターゲットです」
 アバドンは前を向いたまま静かに言う。
「了解、まずは一旦通り過ぎよう」
 見えてきたヌチ・ギの屋敷の玄関には警備兵が二名、槍を持って前を向いている。石造り三階建てで、入り口には黒い巨大な金属製のドアがついており、固く閉ざされている。この辺りの邸宅は隣家とのすき間がなく、通りに沿ってまるで一つの建物のようにピタリと並んでいる。
 向こうの方から荷馬車がやってきてヌチ・ギの屋敷前に止まった。どうやら荷物の配達らしい。これはチャンスである。