自宅で寝てても経験値ゲット!~転生商人が最強になってムカつく勇者をぶっ飛ばしたら世界の深淵に

 壁の外は色とりどりの花が咲き誇る花壇の真ん中だった。夕方、傾いた日差しに花壇の花々にも陰影が付いてきている。
「外に逃げたぞ! 追え――――!」
 中から声が響いてくる。

 俺はすかさずドロシーをお姫様抱っこした。
「きゃぁ!」
「それでは奥様、これからハネムーンですよ!」
 俺は少しおどけてそう言うと、隠ぺい魔法と飛行魔法をかけてふわりと浮き上がった。徐々に高度を上げていく。
 下ではたくさんの兵士たちが俺を探しているが、もはや気にもならない。アバドンに聞いたが院長も無事らしい。お膳立てをして最後に体まで張ってくれた院長。いつか必ず恩返しをしなくては。

「もう二度と見られないかもしれないから、しっかりと目に焼き付けて」
 俺はそう言って孤児院の周りをゆっくりと回った。
 長年お世話になった石造り二階建ての古ぼけた孤児院、子供たちの遊んでいる狭い広場に、いろいろあった倉庫……。溢れんばかりのエピソードが次々と思いこされてくる。

 ありがとう……。

 次に俺の店の跡、そしてドロシーの部屋の上を飛んだ。
 ドロシーは何も言わず、静かに思い出の場所たちをじーっと眺めていた。

 俺はゆっくりと街を一巡りする。
 夕陽を受けてオレンジに輝きだす石造りの街。
 武闘会の余韻の残るメインストリートはまだ賑わいを見せていた。まさか優勝者が頭上をタキシード着て飛んでるとは、誰も思わないだろう。

「この街ともお別れだな……」
 俺が感傷的につぶやくと、
「私は、あなたが居てくれたらどこでもいいわ」
 と、ドロシーはうれしそうに笑った。
「あは、それを言うなら、俺もドロシーさえ居てくれたらどこでもいいよ」
「うふふっ!」
 満面の笑みのドロシー。夕日を受けて銀髪がキラキラと(きら)めいた。

 見つめ合う二人……。
 そして、ドロシーが目を閉じた。
 俺はそっとくちびるを重ね、舌をからませる。
 すると、ドロシーは一か月間の寂しさをぶつけるように、熱く激しく俺をむさぼってきた。
 俺もその想いに応える。

 カーン! カーン!
 教会の鐘が夕刻を告げる。それはまるで二人の結婚を祝福するかのように、いつもより鮮やかに高く街中に響きわたった。