自宅で寝てても経験値ゲット!~転生商人が最強になってムカつく勇者をぶっ飛ばしたら世界の深淵に

 俺は広い岩のステージの上に座り、そこから雄大な御嶽山を眺めた。
 チチチチ、という小鳥の鳴き声が響き、森の香りが風に乗ってやってくる。
 俺はこの風景をドロシーにも見せたいなと、つい考えてしまう。きっと、『すごい! すごーい!』って言ってくれるに違いないのだ……。

「ドロシー……」
 不覚にも涙がポロリとこぼれる。
 知らぬ間に自分の中でドロシーが大きな存在になっていることを思い知らされた。大切な大切な可愛い女の子、ドロシー。離れたくない。
 でも、俺の直感は告げている、恐ろしいトラブルは必ずやってくる。この波乱万丈の俺の人生に18歳の少女を巻き込むわけにはいかないのだ。
 俺は大きく息をつき、頭を抱えた。

      ◇

 翌日、俺は田舎の中古建物の物件をいくつか見て回り、小さめのログハウスを買うことにした。一人で住むのだからそんなに大きな家は要らない。部屋は一部屋、キッチンがついていて、トイレと風呂が奥にある。玄関の前はデッキとなっており、イスとテーブルを置いたら森の景色を快適に楽しめそうである。

 契約が終わった夜にさっそく拠点にまで移築した。月の光を浴びながら空を飛ぶログハウス、なんともファンタジーな話である。
 家具や食料、日用品も揃えないといけない。ベッドにテーブルに椅子に棚を運び、日用品は自宅から持っていく。
 水回りも大切である。裏の貯水タンクには水魔法で生成した水をため、排水は簡易浄化槽経由で遠くの小川まで配管を伸ばした。
 一週間くらい忙しく作業して何とか生活できる環境が出来上がった。暇な時間ができるとドロシーのことを思い出してしまうので、忙しくしていた方が気が楽だった。

      ◇

 俺はデッキの椅子に腰かけ、グラスにウイスキーを注いだ。
 夕焼けに染まる御嶽山の岩肌は荒々しくも美しく、ログハウスの竣工(しゅんこう)を祝ってくれているかのようだった。
 あれからドロシーとは会っていない。アバドンが警備をしているから無事なのはわかっているが、毎日家に引きこもっているらしい。
 ドロシーのいない暮らしは、心に何か穴があいたような空虚さが付きまとう。とは言えドロシーと距離を取ると決めたのは俺なのだ。心の痛みは甘んじて受ける以外ない。それがドロシーのためなのだ……。