自宅で寝てても経験値ゲット!~転生商人が最強になってムカつく勇者をぶっ飛ばしたら世界の深淵に

 涙声でそう叫んで店を飛び出して行ってしまった。
「ドロシー……」
 俺はどうすることも出来なかった。ドロシーが一番大切なのは間違いない。昨日の旅行で、熱いキスでそれを再確認した。しかし、大切だからこそ俺からは離しておきたい。俺はもうドロシーがひどい目に遭うのは耐えられないのだ。次にドロシーが腕だけになったりしたら俺は壊れてしまう。
 もう、ドロシーは俺に関わっちゃダメだ。俺に関わったらきっとまたひどい目にあわせてしまう。
 そして、ここで気が付いた。ドロシーが『一番大切』という言葉を覚えているということは、昨晩のこと、全部覚えているということだ。記憶をなくしたふりをしていたのだ。俺は自分がドロシーの気持ちを踏みにじっていて、でも、それはドロシーのために譲れないという、解決できないデッドロックにはまってしまったことを呪った。
 俺はため息をつき、頭を抱える。
「胸が……痛い……」
 なぜこんなことになってしまったのか? どこで道を誤ったのか……。
 俺はドロシーが投げつけてきたお店のエプロンを、そっと広げた。そこにはドロシーが丁寧に刺繍したウサギが可愛く並んでいる。
「ドロシー……」
 俺は愛おしいウサギの縫い目を、そっとなで続けた。






3-16. 新居開拓

 それから武闘会までの一か月、俺は閉店作業を進めつつ新たな拠点の確保を急いだ。しばらくは人目に触れない所でゆっくりするつもりなので、山奥をあちこち飛び回りながら住みやすい場所を探す。
 御嶽山(おんたけさん)山麓(さんろく)を飛んでいたら小さな池を見つけた。この辺は強い魔物が出る地域のさらに奥なので人はやってこないし、実は魔物も出ない。さらに、あちこちから温泉が湧いているからかクマなども寄り付かないようだ。
 降り立ってみると、池の水は青々と澄んでいて、ほとりからは遠くに御嶽山の荒々しい山肌が見え、実に見事な景観となっていた。

「あー、いい景色だ……。癒されるねぇ……」

 俺はとても気に入って、ここに拠点を築くことにした。

 まずはエアスラッシュで池のほとりに生えている木々を一瞬で刈り取った。パンパンパンパンとデカい木々がボーリングのピンみたいに一斉に倒れていく。