それからは森通いの日々だった。日曜日はミサがあるので休みにしたが、それ以外は金稼ぎに専念した。
 平均すると毎日七万円程度の稼ぎになり、孤児院に二万円ほど入れるので、毎日五万円ずつたまっていく計算だ。実に順調なスタートだと言える。

       ◇

 その日もいつものように朝から森に出かけた。
 近場はあらかた探しつくしてしまったので、ちょっと奥に入ることにする。
 いつもより生えている木が太く、大きいが、その分、いい薬草が採れるかもしれない。

 鑑定をしながらしばらく森を歩くと、奥の方でパキッと枝が折れる音がした。
 俺はビクッとして、動きを止める。

『何かいる……』
 冷や汗がブワッと湧き、心臓がドクドクと音を立て始めた。
 物音はしないが、明らかに嫌な気配を感じる。
 何者かがこちらをうかがっているような、密やかな殺意が漂ってくる。

 俺はそーっと音がした方に鑑定スキルをかけていく。
 
 
ウッドラフ レア度:★1

カシュー レア度:★1

キャスター レア度:★1

ゴブリン レア度:★1
魔物 レベル10


 俺は血の気が引いた。
 魔物だ、魔物が出てしまった。
 ゴブリンは弱い魔物ではあるが、俺のレベルは1だ。まともに戦って勝てる相手じゃない。今、俺は死の淵に立っている。
 どうしよう……、どうしよう……。
 必死に考える。
 木の上に逃げる?
 ダメだ、そんなの。下で待ち続けられたらいつかは殺されてしまう。
 やはり、遠くへ逃げるしかないが、どうやったら無事に逃げられるのか……。

 俺は気づかないふりをしながら、そーっと今来た道をゆっくりと歩きだし……、
 バッグも道具も一斉に投げ捨て、全速力で駆けだした。

「ギャギャ――――ッ!」「ギャ――――!」
 後ろで二匹のゴブリンが叫び、追いかけてくる音がする。
 絶体絶命である。
 全く鍛えていない十歳の子供がどこまで逃げられるものだろうか? 絶望的な予感が俺を(さいな)む。
 しかし、捕まれば殺される。俺は必死に森の中を走った。
 森に入ってまだ十分くらい。数分駆ければ街道に抜けられるだろう。そして、街道に出たら、助けてくれる人が出るまで街道を走るしかない。

 ハァッ! ハァッ! ハァッ!

 息が苦しく酸欠で目が回ってくる。

「ギャッギャ――――ッ!」「ギャ――――!」