就活か魔王か!? 殺虫剤無双で愛と世界の謎を解け!~異世界でドジっ子と一緒に無双してたら世界の深淵へ

 しばらく押し続けていると、違うメッセージが表示された。
『ミネルバとソータ、二名に重大な命の危険があります。衝突回避しますか? はい/いいえ』
「ソ、ソータ……?」
 その文字を読んだとたん、エステルは動けなくなった。
 理由は分からないが心が頑固としていうことを聞かない。
 『いいえ』を押そうとするがどうしても手が動かず、気が付くと、頬にツーっと涙が伝わってきた……。
「え!? どうしたですか、私?」
 エステルは涙をぬぐい、困惑した。
 ソータという聞いたことのない名前に、なぜこんなに動揺しているのか、エステルは全く分からなかった。
「ソータって誰なんです?」
 涙声で取り乱すエステル。
 しかし、マリアンの命令は絶対だ。押さねばならない。マリアンを殺そうとするこの悪者ソータに正義の鉄槌(てっつい)を食らわせねばならない。

 エステルは何度か深呼吸をし、呼吸を整えると『いいえ』に指を伸ばした。ブルブルと震える指先……、押す、押さねばならない、エステルは力を振り絞って指を前に伸ばした。

      ◇

 ソータとミネルバを乗せたシャトルがジグラートに接舷(せつげん)した。

 プシュー!

 エアロックが開くと、中は無数のインジケーターがチラチラと明滅し、まるで満天の星空のようだった。
 ミネルバが照明をつけると、中の様子が明らかになった。そこには交番くらいのサイズの円柱状のサーバーがずらーっと見渡す限り並んでいた。足元の金属の金網越しに下を見てもずーっと下の方までサーバーの階層は続いている。トータルで言うと三十階建くらい、各フロアの広さは新宿の街くらいだった。すごい量のサーバー群である。これがスパコン富岳一兆個分のコンピューターシステムらしい。確かにこれだけあれば星を一つシミュレーションすることも問題ないよなぁ……と、思わずため息をついた。

 入り口の脇に(たたみ)くらいの板があり、ミネルバがしゃがんで説明してくれる。
「これがサーバーのブレードよ。これが円柱にズラッと刺さっているの」
 ブレードには微細な模様がビッシリと施されたガラスで埋まっていて、何がどうなっているのかもわからない。
「これはすごいですね……」
 俺はまるでアートのような美しいガラス工芸品に、感嘆の声を漏らす。