就活か魔王か!? 殺虫剤無双で愛と世界の謎を解け!~異世界でドジっ子と一緒に無双してたら世界の深淵へ

 ドアをくぐって、俺は驚いた。なんとそこには富士山がドーンと目の前にそびえ、足元には芦ノ湖が広がっていた。異世界なのになぜ?

「は、箱根ですか!?」
 思わず俺は声に出してしまう。一面ガラス張りの広い部屋の景色は最高で、思わずため息が出てしまう。しかし、日本の箱根であれば湖畔に多くの建物があるはずだが……、何も見当たらない。ここは異世界の箱根のようだ。日本と同じ地形データを使っているということ……なのだろう。俺は改めて仮想現実空間の奇妙さにクラッとした。

 奥から頭が猫の人が出てきて言った。
「そうよ、箱根。いい景色でしょ?」
 俺は一瞬どういうことかと混乱した。猫だ……猫の人だ……。
 茶シロのスコティッシュフォールドで、オレンジ色の瞳……。そんな愛らしい猫が身長百六十センチくらいで立ち、アイボリーのワンピースを着て人の言葉を話したのだ。
 俺が言葉を失っていると、エステルが、
「うわぁ、猫の人ですぅ!」
 と、うれしそうに彼女に近づいた。
「あなたがエステルさんね、こんにちは」
 そう言って猫の人は手を差し出してエステルと握手をする。手は毛におおわれてはいるが人間の手の形をしていた。
「ミネルバ様……ですか?」
 俺が恐る恐る声をかけると、
「そうよ、ソータ君ね。初めまして」
 そう言って俺とも握手をしてニッコリと笑った。さすが管理者(アドミニストレーター)、もはや人間を超越している。
「もうすぐ大聖女のマリアンも来るわ」
 ミネルバはニッコリとそう言った。
「……。マリアン……?」
 この名前は憶えがある。魔物倉庫で聞いた名前だ。この世界の管理者(アドミニストレーター)すら原因が分からない魔物の侵攻だが、管理者(アドミニストレーター)グループの中の人が悪事を働いていたのであればしっくりくる。
 名前が同じだけという、そんな曖昧な事を話していいものか一瞬悩んだが、多くの人命がかかっている話であり、何でも話しておこうと思った。
「あのぉ……」
「何?」
 ミネルバはクリッとした瞳を大きく開いた。実に可愛い。可愛すぎる……。猫は反則だ。
 俺はちょっと目を背けて大きく息をついて言った。
「写真の魔物倉庫に若い女性が入ってきて、名前が『マリアン』だったんです」
「えっ!?」
 ミネルバは驚いて魔王と目を見合わせる。
「ひょっとすると……」