就活か魔王か!? 殺虫剤無双で愛と世界の謎を解け!~異世界でドジっ子と一緒に無双してたら世界の深淵へ

 そう言って出て行ってしまった。

 肝心のところが聞けなかった。エステルが気に病んでいることは何なんだろう?
 先輩の話では、彼女は俺との結婚を望んでいると言う事だったのに。
 望んでいても結婚は出来ないってこと? 実は婚約者がいるとか、宗教上の制約があるとか……、なんだろうな?
 これはプロポーズしても断られる可能性があるという事だ。いまさらそんな展開アリか?

「なんだよぉ……」
 俺は額に手を当て、ベッドに背中からバタリと倒れ込んだ。なんだか急にエステルが遠い存在になってしまった気がした。

      ◇

 結局、言い出す機会もなく、エステルの問題は謎のまま時間になり、俺たちは魔王の屋敷まで来ていた。
 石造りの重厚な建物には233と書かれた小さくオシャレな金属パネルが掲げられ、大きなドアがある。
 俺は大きく深呼吸を繰り返すと、コン! コン! とドアに付けられたライオンのドアノッカーを叩く。

 しばらくしてドアが開き、中から黒いスーツを着た男性が出てくる。
「いらっしゃいませ。どうぞ……」

 俺たちは男性の後をついて廊下を進む。
 この世界の破滅をもくろむ魔王。一体どんな人なのだろうか?
 なぜ、こんな所に一般人のように暮らしているのか?
 謎だらけである。

 男性は居室のドアの前で止まると、コンコンとドアをノックして、
「マスター、お客様がお見えです」
 と言った。そして中の反応をみて、ドアを開け、
「どうぞお入りください」
 と、俺たちを部屋へと案内した。

 部屋に入って驚いた。そこには巨大なモニターが何枚も展開されており、数字、グラフ、世界各地の映像がびっしりと表示されていて、まるで証券トレーダーのディーリングルームのようだった。

「よく来たね、まぁかけて」
 Tシャツにジーンズ姿の大柄な白人男性がニコッと笑うと、ソファーを指さした。
 魔王? 彼が? 俺はおどろおどろしい悪魔の化身のような存在を想像していたが、実際はアメリカのハッカーみたいな人だった。

 俺たちは言われるがままに座ると、スーツの男性がうやうやしく紅茶を注いでくれた。
「魔王……様ですか?」
 俺は聞いてみる。
「そう、僕は魔王。ソータ君だね。ヴィーナ様からよく話は聞いているよ。こちらが……フィアンセかな?」
「フィアンセ?」
 エステルが首をかしげる。