就活か魔王か!? 殺虫剤無双で愛と世界の謎を解け!~異世界でドジっ子と一緒に無双してたら世界の深淵へ

 ランプの炎が優しく照らす中、飛んだ上着は何だかコマ送りのように、ギザギザな残像を残したのだ。
 それは安物のLEDランプの時に感じるような、ほんの些細な事だったが、すごく気になった。
 俺は手のひらをブンブンと振ってみる。すると、やはり、滑らかな残像とならない……。おかしい……。ランプの炎はアナログだ。像は必ず滑らかになるはずなのだ。
 ハンドタオルを丸めて結び、壁に向けて投げてみた。ハンドタオルは点々と残像を残して飛ぶ。ざっと計算すると、三百分の一秒ごとに像が生成されているようだった。
 昨日まではこんな事なかったのに……、と思って気が付いた。レベルが150に上がって、動体視力が上がったのだ。普通の人じゃ全く気が付かない像の異常に、気がつくようになってしまったのだった。
 と、なると……。この世界は三百分の一秒ごとに像が生成されている仮想現実空間と言う事になる。言わばMMORPGのようなゲームの世界の中と言う事だ。俺はにわかには信じられなかった。美味しい料理、旨い酒、エステルの柔らかな頬に温かさ、これら全部が仮想現実上のデータと言う事になる。つまり、エステルもただのゲームのキャラクターになってしまう。結婚を考えていたあの愛しい存在がただのゲームのキャラクター? そんな馬鹿な……。
 俺はゾッとして冷や汗がタラりと流れた。

 思い返せば、魔法にしても殺虫剤にしても美奈先輩の起こす奇跡にしても、仮想現実空間であればいくらでも説明がつく。データを都合よく処理しているだけだからだ。
 俺は手のひらをジッと眺めた。表面に刻まれた微細なしわ、指紋、皮膚の中に巧妙に入り組んだ赤と青の血管たち……。その全てが動かせば微妙に形を変えながら柔らかく追随(ついずい)していく。これが全部コンピューターが作り出したものだって?
 一体だれが何のためにこんなシステムを組んだんだ? そもそもそんな事できるのか?

 と、ここで俺は嫌な事を思い出した。スマホだ。俺はスマホを取り出してロックを解除した。音楽を選ぶと当たり前のように鳴り出す。しかし、ここは仮想現実空間。三百分の一秒ごとに像が生成されている世界だ。なぜ、日本のスマホがそのまま動くのか?
 そしてさらに嫌な事を思い出す。美奈先輩は日本の俺の部屋のエステルをそのまま治療していた。これはもしかして……日本も仮想現実空間……なのか?