俺は彼女が何を言ってるのか良く分からなかったが、救世主だとの誤解は早めに解かねばなと思った。







1-5. 異世界に就職!?

 カップ麺のふたを開けると美味そうな匂いが立ち上ってくる。

「うわぁ! いい匂いですぅ!」
 目を輝かせるエステル。
 割り(ばし)を渡したものの、エステルはお箸を見て怪訝(けげん)そうな表情をする。お箸の文化が無いようなので、フォークを取ってきて渡した。
 エステルは麺を一本引っ張り出し、フーフーと冷まして口に入れる。
「うーん、美味しいですぅ!」
 エステルは幸せそうに目を閉じた。口に合ったようで何より。

 俺が麺をズルズルとすすっていると、エステルが不思議そうに、
「ソータ様はなぜこんなに熱い物を一気に食べられるですか?」
 と言って、首をかしげた。
「え? すすりながら食べると熱くても大丈夫……、みたいだね?」
 そう言って、ズズーっとすすって食べた。
 エステルも真似してすすろうとして……、
 ゲホッゲホッと咳込んだ。どうも麺をすする事が出来ないらしい。
 本当に異世界の人なのだ。

「無理しなくていいよ、少しずつ食べて」
「はい……」
 そう言って、また一本ずつ食べ始めた。

「ソータ様はお料理上手なんですねっ!」
 エステルはカップ麺がいたく気に入った様子でニコニコしながら言う。
「あー、これはお湯を入れただけなんだよ」 
「ふぅん、それでも嬉しいですぅ」
 エステルはニッコリと笑った。
 俺はキラキラとした美しいエステルの笑顔についドキッとしてしまう。可愛い女の子にこんなに好意的に接してもらったことなんて、生まれて初めてかもしれない。
 とは言え、俺がやったことなんて殺虫剤()いてカップ麺にお湯入れた位だ。思いあがらないようにしなくてはならないな、と思った。

 カップ麺を食べながらこれからどうしようか考える。とりあえず、ダンジョンを脱出して家に送り届けるまでは、ついて行ってやらないとマズいだろう。しかし、魔物が次々と出てくるダンジョン、全てに殺虫剤が効く保証もない。となると、それなりの装備が必要だ。殺虫剤もたくさん調達しないといけなそうだし、服装も冒険に合った物にしないといけない……。ただでさえ金欠なのに、と気が重くなる。