寝言を言うエステル。俺はドキッとした。
 心の底からエステルへの愛おしい想いが噴き出してきて、俺は胸がキュッとなった。

 俺は目をつぶり、彼女と共に暮らす生活を思い描く。それはきっと毎日イベント盛りだくさんのにぎやかな暮らしになりそうだった。俺の隣にいつもエステルがいる……。あれ? 悪くない……かも……。
 エステルがいない暮らしとどっちがいいか? 答えは明白だった。そうだよ、俺はエステルと一緒にいたい。

「一生、一緒……。うん」
 俺はそう言って、彼女の頬にそっと頬ずりをする。
 エステルのモチモチとした柔らかい頬が、俺の心に温かい灯りをともした。

 先輩は、俺の人生をねじ曲げようとした訳じゃなかったのだ。自分の心の声に気が付かない間抜けな俺に呆れ、背中を押しただけだったのだ。さすが女神様。俺より俺の事知ってるんだ……。俺は先輩に心から感謝をした。

 俺はそっとエステルの隣に潜り込み、添い寝をする。愛しい人の温もりを感じ、優しい香りに包まれながら寝入っていった。























3-5. 新たなる異世界

 目が覚めるとすっかり暗くなっていた。
 エステルはというと、まだぐっすりと寝ているようだ。

 俺はコーヒーを入れ、飲みながらゆっくりと状況を整理する。
 さて……、次は何するんだったかな……。

 殺虫剤はうまく機能したから、線香の長さを調整したセットをいくつか作って、缶を束ねれば魔物の襲来に対する準備はいいだろう。
 後は魔王と交渉……、そうだ、先輩に魔王の居場所を教えてもらわないと……。
 俺はメッセンジャーで居場所の催促(さいそく)を送った。

 えーとそれから……、
 と、ここで、壊れた鏡が気になった。鏡は生命線だ。壊れたままにしておくわけにはいかない。

 壊れた鏡の枠を見てみると、鏡の端が露出して見えている。ここが異世界への出入り口の境目……。
 俺は興味が湧いてきて、鏡の端にカッターナイフの刃を当ててみる。すると、鏡面に当たってる部分は異世界へと送られ、当たってない所はそのまま前へと進み、切れてポトリと落ちた。
 つまり、極めて鋭利な刃物状態になっていた。空間を裂いている訳だから理論上最強の刃物である。俺はゾッとした。
 逆にこれを鏡面の内側からこじってみたらどうだろうか?