エステルを見ると太ももの赤黒い色はどんどんと広がり、下腹部まで変色してきている。とても1時間ももちそうにない。
 詰んだ! あの、殺された盾の若者のおぞましい死体がフラッシュバックしてくる。
 ど、ど、ど、どうしよう……。
 俺はエステルを失いつつある現実に目の前が真っ暗になった。
「ソ、ソータ様ぁ……」
 もうろうとするエステルが、うなされてうわごとのようにつぶやく。
 俺はエステルの手を両手でしっかりとにぎった。
「な、なに? どうした?」
 涙がポロポロと湧いてくる。

「ドジで……、ごめんなさい……」
 くぅ……! 俺は涙でぐちゃぐちゃになった。
 違う、ドジなのは俺だ。貴重なポーションをまぬけにも無駄にしてしまった。
 ダンジョンで飲ませるだけだったのに、なぜ、気が付かなかったのか……。
「ゴメン、ゴメン! ドジは俺の方だ!」
 俺は叫んだ。

 俺はどうしたらいい?
 彼女を失う訳にはいかない。寝食を共にし、死線をかいくぐってきた大切な仲間。今エステルに死なれたら俺はどうにかなってしまう。

 ダメだ、考えろ! 考えろ!
 何か手があるはずだ。
 救急車を呼ぶ? いや、こんなファンタジーな毒、現代医学で対応可能かどうかも怪しい。
 こんな毒を治せるのは……、そうだ! 先輩だ! 先輩ならこんな毒一瞬で治せるに違いない。何としてでも頼み込んで治してもらうしかない。

 俺はスマホを取り出すと、メッセンジャーから『通話』を選んでタップした。
















3-4. 一生、一緒

 トゥルルル……、
 俺は必死に祈った。
 先輩! 出て! 頼む!

『ハーイ! ソータ!』
 明るい声で先輩が出た。
「せ、先輩! お願いがあります!」
『ダメよ』
 いきなり拒否られる俺。

「えっ!?」
『女神はそう簡単に願いなんて聞けないわ』
 冷たい声で突き放す先輩。

「えっ! えっ! 一生のお願いです! 何でも言うこと聞きます! 彼女を助けてください!」
 俺は必死に叫んだ。
『何でも?』
「何でもです!」
『絶対?』
「二言はありません!」
『じゃあ、あなた、その子と結婚しなさい』
「はぁっ!?」
 俺はあまりに唐突な条件にあっけに取られた。
『できないの?』
「い、いや、そのぉ……。結婚って彼女の意志もあるわけで、私の一存では……」