「あー、ちょっとおいで」
 俺はベランダにエステルを連れて行って東京の景色を見せる。
「えぇ――――っ!? なんですかこれ!?」
 目の前に広がるビルの森、通りを走るたくさんの車たち、そして遠くに見える真っ赤な東京タワー……。エステルには、全てが初めて目にする訳分からない存在だった。
「ここが俺の住む街だよ。エステルの世界とは全然違うだろ?」
 エステルは真ん丸に目を見開きながらつぶやいた。
「さすが……、ソータ様……」
 何だか誤解をしているような気がする。

 と、その時、

 グルグルグルギュ――――。
 景気のいい音が鳴り、エステルが真っ赤になってしゃがみこんだ。
「あ、お腹すいたの? カップ麺しかないけど食べる?」
「恥ずかしいです。こんなはしたない……」
 エステルは恥ずかしそうにうつむいた。
「ははは、それだけダンジョンで苦労したんだろ、一緒に食べよう」
 そう言って部屋に戻り、俺はエステルをベッドに座らせた。
「シーフードとカレーと普通のどれがいい?」
「わ、私は何でも……」
「じゃぁ、普通のにするか。俺はカレーで……」
 俺はキッチンでお湯を沸かす。

       ◇

 カップ麺を持って部屋に戻ってくると、エステルが真っ赤になってカチカチになっていた。
 何だろうと思って手元を見ると……エロ同人誌を持っていた。
「あっ……」
 棚にそのまま置いておいたのは失敗だった……。
「ソ、ソータ様は……こ、このようなご奉仕が……良いですか?」
 真っ赤になってうつむきながら、一生懸命絞り出すように聞くエステル。
「あ、いや、それは……」
 何と説明したらいいか俺も真っ赤になってしまう。
 すると、エステルは目をグルグルさせながら必死になって言う。
「わ、私……胸もこんなにはなく、経験もないですが、ゴブリンに(けが)されるところを助けてもらった身。ご、ご要望とあれば、それは……」
 そう言って、エロ同人誌を握り締めた。
「な、何を言ってるんだ。そういうのは好きな人とやるものだよ。自分の身体をもっと大切にしなさい。いいから食べるよ」
 俺はそう言って同人誌を取り上げると、小さなテーブルにカップ麺を並べた。
「そ、そうですよね……。ソータ様に好いてもらえるように頑張るです!」
 そう言ってエステルはこぶしを握り締めた。