一口含むと、シュワシュワとした泡の中からホワイトフラワーの香りがし、後から野生のベリーのアロマが出現してくる。凄いワインだ……。俺は世界を救えそうな手ごたえに充実感を感じ、ワインの酔いに心地よく揺られた。

 俺たちは次々と出てくる美味しい料理に舌鼓をうちながら、殺虫剤の準備をどうやるかを雑談交えて楽しく盛り上がっていた。

「きゃははは!」
 奥の団体さんがさっきから異常ににぎやかである。
 どんな団体かと思い、ワインを飲みながらそっと様子をうかがって、ワイングラスを持つ手が止まった。

「えっ!?」

 美奈先輩だ……。ソバージュのかかったセミロングの茶髪を手でさらっと流し、仲間と笑っている。透き通るような白い肌にパッチリとした琥珀(こはく)色の瞳、そのドキッとするほどの美しさは見間違いようがない。
 異世界を作り、俺を(いざな)った超越的な神様が目の前でワイン飲んで笑っているのだ。俺は唖然(あぜん)として、言葉を失った。









2-12. 魔王によろしく

「ど、どうしたですか?」
 エステルが聞いてくる。
 俺はどう説明したものか返答に(きゅう)した。彼女の信奉してる女神様がそこで楽しそうに笑ってる。そんなこと、どう説明したらいいんだろう?
 俺がどうしようかと悩んでいたら、美奈先輩がこっちに気が付いてニヤッと笑った。
 そして、ワイングラスを持ってやってくる。

「あら、ソータ君、楽しんでる?」
 上目づかいに笑顔で声をかけてくる先輩。いつもに増して美しく見える。
「命がけで必死なんですけど?」
 そう言いながら、俺は差し出されたワイングラスにチン! と合わせた。

「あ、あのー、この方は?」
 エステルが不安げに聞いてくる。
「エステルもよく知ってる人だよ。教会に像があったろ?」
 エステルは怪訝(けげん)そうな顔をして先輩を見る……。
 先輩はニッコリと素敵な笑顔でエステルを見る。

「あっ!」
 エステルは声を出して固まった。
「いつもお祈りありがとうね、乾杯!」
 先輩はそう言ってエステルのグラスにチン! とグラスを合わせた。
「ヴィ、ヴィーナ様……」
 エステルは真ん丸に目を見開いて言葉が続かない。

「あの世界は先輩が作ったんですか?」
「そうよ? いい星でしょ?」
 先輩は当たり前のようにニッコリとして言う。