ギルドに着くと、受付嬢に事の顛末を説明し、遺品と金貨をカウンターに並べた。受付嬢は涙を浮かべ、報告をうなずきながら聞くと、ひどく気落ちしながらも事務手続きを淡々とこなしていった。
 剣士の男は生還してきたら要注意人物として告知するそうだ。背伸びしたくなるのは分かるが掛け金が一つしかない命である以上、身の丈を超えたことには慎重にならなくてはならないし、仲間を捨てて一人逃げ去ったというのも問題だった。
 ただ、これは俺も他人事ではないと思う。極限状態に追い込まれた時に自分だったらちゃんと適切に動けるか? 絶対背伸びはしないか? と考えると、安易に大丈夫とも言い切れない。冒険とは安全だけ追っていては成果にならないし、不測の事態は必ずやってくる。適切な判断をし続ける事は、思うよりもずっと複雑で難しく思えた。

 一通り手続きが終わると、俺は魔石を換金する。今日は金貨一枚ちょっとにしかならなかった。がっかりして帰ろうとすると、
「あ、ソータさんはマスターからお話があるようなので、マスターの部屋へ行っていただけますか?」
 と、受付嬢に引き留められた。
 嫌な予感がする……。








2-10. 十万匹の魔物

 俺はエステルと一緒にマスターの部屋へ行き、ソファーに座る。
「ソータ君、忙しいところ悪いね」
「いえ、何かありましたか?」
 マスターは目をつぶり、大きく息をつくと言った。
「教会から連絡があって、女神様より神託が下ったそうだ」
「女神様はなんて?」
「『三日後に魔物の大侵攻がある。その数、十万。ギルドのCランクの新人に頼れ』だそうだ……」
「ブフッ!」
 俺は思わず噴き出してしまった。先輩、なんという無茶振りを……。
 俺は頭を抱えた。
「君は女神様にも注目されているようだね……」
「あー、そうかもしれません……。しかし、十万匹って一人の人間がどうこうできるレベルを超えてますよね?」
「そうは思うんだが、女神様直々の推薦だからね。ギルドとしてもソータ君に頼らざるを得んという訳なんだ」
 俺はエステルの方を見た。
「ソータ様ぁ……」
 エステルは不安げに俺を見る。
「分かりました。三日後ですね。何ができるかちょっと考えてみます」
「頼んだよ。この街の命運は君にかかっているのだ」
 俺は目をつぶって大きく息をつき……、
「分かりました! エステル、行くぞ!」