やがて光の粒が死体から蛍のようにどんどんと飛び去って行き、最後には装備品だけが残った。

 俺は認識票を拾う。陶器でできた認識票には名前と番号が彫られていた。彼の命は失われ、認識票は遺品へと変わってしまった。
 俺は生意気だった若者を思い出し、目をつぶって大きく息をついた。

       ◇

 俺は鏡を出すと、涙の止まらない二人を部屋に連れて行った。そして、エステルに身体を拭いてもらい、ベッドに寝かせる。
 しばらく、俺の部屋には二人の嗚咽(おえつ)が響いた。

 落ち着くのを待って、俺は二人に紅茶を入れ、飲んでもらった。
 ぽつぽつと話し始めた彼女たちの話を総合すると、あの部屋はモンスターハウスで、リーダーの剣士の男が宝欲しさに無理して開けてしまったそうだ。最初は盾役も頑張って上手くいっていたのだが、いかんせん敵の数が多く、盾役が押し倒されてしまった。それを見た剣士は一目散に逃げてしまい、一気に崩壊してしまったとのことだ。僧侶がホーリーシールドを出していたので、剣士が頑張ればまだ目があったのだが、男は無責任にも走り去ってしまったらしい。
 そして、女の子たちは朝の無礼なふるまいを口々に詫びた。
「ドジなのは本当ですから、仕方ないですぅ」
 エステルは優しく答える。

 俺は彼女たちに拾った認識票を渡し、彼のためにしばらくみんなで黙とうをささげた。
 彼は田舎から出てきた若者で、身よりは街には居ないので、拾った手甲と剣は遺品として、また、宝箱にあった金貨三枚は遺産として田舎の家族に届けてあげることにした。

 それにしても剣士はどこに行ってしまったのか? 十九階から一人で帰れるのだろうか?
 
 








2-9. 突然のモテ期

 彼女たちを街に送り届けないとならない。十九階から行こうとすると、ニ十階のボスを倒してポータルで入り口に飛ぶのが手っ取り早そうだ。
 四人で十九階の階段を下りると、デカい金属でできた扉があった。どうやらこれがボス部屋らしい。
 扉を開け、中に入ると体育館のような広大な広間が広がっていた。
 ドアが自動的にギギギーっと閉まり、魔法のランプがポツポツと中央部を照らしだす。
 何が起こるのかと思っていたら、部屋の中央部に巨大な魔法陣が展開し、光を放った。
 俺はすかさず魔法陣の中心に向けて殺虫剤を噴霧する。