「おい、待てよ!」
 俺が叫ぶのも聞かず、逃げて行ってしまった。
「いやぁぁぁ!」「ぎゃぁぁぁ!」
 悲痛な叫びが聞こえてくる。魔術師と僧侶の女の子たちではないだろうか?
 孕み袋にされてしまう。俺たちは急いで走った。







2-8. レストインピース

 しばらく行くと、灯かりのともる部屋が見えてきて、
「ギャッギャッギャ!」「ギュキャァ!」
 というゴブリンたちの歓喜の声が聞こえる。
 俺は殺虫剤を準備すると部屋をのぞいた。
 そこには二人の女の子たちが服を破られ、綺麗な肌をさらしながらゴブリンたちに囲まれ、組み敷かれていた。
「お前ら離れろ!」
 俺はそう叫びながら殺虫剤を噴霧した。

 一瞬こちらを見たゴブリンたちは、
「ギュァァ!」「グキュゥ!」
 と、口々に断末魔の悲鳴を上げながら溶け落ちて行った。

 残ったのは力なく横たわる二人の女の子。それぞれ豊満な乳房が汚され、美しかった顔も涙でぐちゃぐちゃになり、赤く腫れあがっていた。
 一体なぜこんな事になってしまったのか……。俺が言葉を失っていると、エステルはテッテッテと駆け寄って治癒魔法を唱え、彼女たちを治していった。

 ふと、入り口の脇を見ると、男がズタズタにあちこち引き裂かれて転がっていた。床にはおびただしい量の血が溜まっている。

「えぇっ!?」
 俺は全身の血の気が引いた。装備を見るに、盾役の男ではないだろうか?
 今朝見た時は生意気に笑っていたあの男が、こんな原形をとどめないまでの肉塊にされるなんて……。俺はブワッと冷や汗が噴き出し、思わず目をぎゅっとつぶった。
 そうなのだ、ダンジョンに潜るという事はこういう事なのだ。いつ殺されてもおかしくない危険な所……。
 そうだ、そうだったよ……。
 ムワッと漂ってくるすえた死臭……。俺は吐き気に襲われ、腰をかがめながらヨロヨロとその場を離れた。頭では分かっていても、こうやって失敗した者の末路を目の当たりにすると動揺が止まらない。明日、俺がこうなってるかもしれないのだ。改めて俺は現実の厳しさに打ちのめされた。

 エステルは変わり果てた男の姿を見つけると、無言で手を合わせしばし祈っていた。そして、
「レストインピース!」
 そう叫ぶと死体は淡い光に包まれた。
 俺も手を合わせ、冥福を祈る。