「ちょっと浮き上がる事は誰にでもできますが、自由自在に飛ぶには凄い練習が要るんです」
 なるほど、そんなに簡単な話じゃないらしい。だが、いつかは飛んでみたい。それは子供の頃からのあこがれなのだ。
「分かりました。それじゃ今日は八十階までの地図と、あとポーションを一式ください」

         ◇

 その後、武具屋と防具屋にも行ったが、やはり物干しざおとユニクロの服や防刃ベストの方が優秀だった。日本の物は異様に高いパラメーターを付与されている。むしろ、ユニクロの服を仕入れて売ったら儲かるんじゃないかとすら思った。

 左腕に付ける丸い盾だけ買って装備してみる。殺虫剤をかいくぐられた時の一撃を回避するのに使えそうだった。

 さて、これで準備万端。いよいよ本格的にダンジョン攻略だ!







2-6. ドジっ子前途多難

 ダンジョンの入り口は昨日と同じようににぎわっていた。
 地図を広げ、エステルと相談をしていると、若い男に声をかけられた。
「おい! エステル!」
 腰に剣を差した皮よろいの男、歳は高校生くらいだろうか? 装備はまだピカピカで駆け出しの冒険者らしい。

「あっ! この前はごめんなさいでした……」
 頭を下げて謝るエステル。どうやら以前のエステルのパーティ仲間のようだ。

「お前が勝手にワナに落ちて、俺たち帰らなきゃならなくなったんだぞ!」
 若い男は語気強くなじる。
「ごめんなさい……」
「このポンコツの出来損ないめ! 二度とお前とは組まないからな!」
 エステルは小さくなり、今にも泣きそうである。
「そのくらいにしてやってくれ。彼女に悪意があったわけではないし」
 俺は彼女と男の間に入って言った。
「なんだ? オッサン?」
 男は俺をにらんで言う。

「エステルは俺とのパーティではよくやってくれている。侮辱するのは止めてもらいたい」
 俺は淡々と言った。
「ポンコツにポンコツって言って何が悪いんだよ!」
 エステルは俺の腕にしがみつき、震えている。
 就活の面接で何度も否定され、何十通もお祈りメールをもらってきた俺には自分を否定される言葉の痛さは良く分かる。
「足りないところはあるかもしれない。でも、悪意が無い者を責めるのは筋が違うと思うよ」
 俺は男の目をジッとにらんで言った。
「なんだ? このオッサン。ショボい装備でイッチョ前に!」