エステルはちょっと恥ずかしそうに言った。
「地図は何階の?」
 おばさんが聞くと、エステルは俺の方を見る。
「出来たら全部欲しいんですが」
 俺が答える。
「全部!? 百階までって事かい?」
 おばさんは驚く。
「あれ? マズい……ですか……?」
「八十階から先はなかなか更新されないから、あまり役に立たないうえに高額よ?」
「高額……というと?」
「十階ごとに一冊となっていて、八十台は銀貨五枚、九十台は金貨一枚ね」
「役に立たないというと……、ダンジョンがどんどん変わっていっちゃうからと言う事ですか?」
「そうよ? それに……、悪いけどあなた達で八十台は……。見たところ三階とかが適正じゃないかしら……」
 おばさんは渋い顔をする。
「大丈夫です! ソータ様は双頭のワイバーンを瞬殺できるんです!」
 エステルがニッコリと笑いながら言う。
「えっ!? 一人で倒したのかい?」
 驚いて俺を凝視するおばさん。
「いや、まぁ、ちょっと特殊な方法で倒せるんです」
「こりゃまた驚いた……。ワイバーンと言うと六十階ね、七十階は筋肉ムキムキのミノタウロス、八十階はワシとライオンのキメラ、グリフォンよ、勝てる?」
 おばさんは興味津々に聞いてくる。
「多分余裕かと……」
 俺はニヤッと笑う。
「ふへー……!」
 おばさんは言葉を失う……。
「えへん!」
 エステルが自分のことのように胸を張る。
「もしかして……、あなたが稀人かい?」
 おばさんが俺を見つめながら聞いてくる。
「あー、違います。そうだったら良かったんですけどね」
 俺は苦笑いしながらごまかす。
「ふぅん……」
「そ、それより、これは何ですか?」
 話題を変えるべく、ショーウィンドウの中に丁寧に並べられた本を指さした。
「これは魔導書よ。魔法を覚えられるわ」
「え? これ使えば誰でも魔法を使えるんですか?」
「知力が一定以上あればね」
 おばさんは挑戦的な視線で俺を見る。
「空飛ぶ魔法とかもあるんですか?」
「これね。知力が30以上なら覚えられるわ」
 おばさんは青い表紙の魔導書を指さす。その六(ぼう)星をあしらった不思議な模様が描かれた重厚な書籍に俺は魅せられた。
 そんな俺を見てエステルが言う。
「魔法は憶えても使いこなすには修練が要るですよ?」
「修練?」