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 自宅に戻ると、家の前に段ボールが積み上げてあった。昨日Amezonで発注しておいた殺虫剤が届いたようだ。くん煙式殺虫剤『バルザン』と最強の殺虫剤『ハチ・アブ・マグナムZ』を百個ずつ。でも、十万匹の魔物が襲来したらこれじゃ全然足りないのだ。千個ずつくらい用意しないとならないが、そんなの家に入りきらない。異世界に拠点を借りないとまずそうだ。

       ◇

 装備を整えて鏡に潜ると、教会の倉庫に出た。

「えっ!? なんで教会に!?」
 驚くエステル。
「エステルは昨日ここで上機嫌だったんだよ」
「あぁ……、なんて罰当たりな事を……」
 エステルはしょげるが、美奈先輩がそんなこと気にするとはとても思えない。
「大丈夫、女神様にはちゃんとフォローしておくから」
 俺はそう言って元気づける。
「ソータ様……、すごいです……」
 エステルは手を合わせてキラキラとした目で俺を見る。
 俺は尊敬させたままでいいのか、ちょっと悩んだ。
 俺はサークルの先輩によって送り込まれた就活生であり、同時に女神によって選ばれたこの世界を救う救世主である。
 尊敬のまなざしは自尊心をくすぐるが……、ちょっと後ろめたい。いつか時が来たらエステルに全部話そうと思った。そして、どんなに持ち上げられても、ただの就活生であることは常に忘れないようにしよう。









2-5. ダンジョン地図

 まずは魔道具屋に向かった。日当たりの悪い裏通りをしばらく行くと、出窓に年季の入ったランプや不思議な人形の飾られた店がある。中は薄暗がりで良く見えない。一人ではなかなか入れないお店だ。
 エステルがドアを開ける。

 カラン、カラン
「こんにちはぁ」
 そう言いながらエステルは入っていき、俺も続く。
 店の中はアジア雑貨のお店のようで、良く分からない物が所狭しと陳列されていた。右手には棚があり、いろんな形をした魔法の杖がずらりと並んでいた。何の気なしに値札を見ると、高い物では金貨百枚を超えるものがあり、ちょっとビビる。

「おや、エステルちゃん、今日はどうしたんだい?」
 奥のカウンターのおばさんが、メガネをクイッとあげて声をかける。

「この杖の買取りと、あと、ダンジョンの地図とポーションをください」
「はいはい、いい杖が見つかったのね」
「少しだけですけどね」