「あ、ありがたいお話ですが、もう僧侶はエステルがいるので……」
 俺は気圧されながら答える。
 クラウディアは俺の手を取り、自分のふとももの上に乗せ、手を重ねた。
「私はあの()より優秀だし……、きっと満足してもらえるわ」
 上目づかいに俺を見るクラウディア。
 エステルとは違う、大人の魅力を漂わせるクラウディアに気圧される俺。
「お、俺と組んで何をやりたいんだい?」
「ダンジョンの百階。ボス部屋の奥にあるはずの、まだ誰も行った事のない伝説の宝物庫……。私、行き方知ってるのよ。あなたと私なら行けるわ」
 なるほど、それは面白そうだ。
「取り分は七対三、私は三でいいわ。どう?」
 クラウディアは俺の目をのぞきこむ。
「うーん……」
 確かに魅力的な話だ。だが……、何かが引っかかる。
 俺はエールを一気にグッと飲む。
「悩む事なんかないじゃない! あの()じゃ無理よ! 私とだから行けるのよ?」
 必死にアピールするクラウディア。

 そこにエステルが寂しそうな顔をして、うつむきながら帰ってきた。
 俺は大きく息をつくと言った。
「魅力的なお話だけど、お断りします」
「なんで!?」
 クラウディアはいきり立つ。
「エステルは『世界を護って』って俺に言うんだよ。命かけるならお宝じゃない、世界平和だ」
「当然、私だって魔物の襲来時には手伝うわよ!」
「それはそうなんだけど、百階攻略で死んじゃう可能性もそこそこあるだろ?」
 クラウディアは俺をにらむ。
 俺は視線に耐え難くなり、エールを一気に空けた。

「あぁ、そう。分かったわ!」
 クラウディアはバッグから銅貨を何枚か取り出し、パンとテーブルに叩きつけると、
「きっと後悔するわよ!」
 そう言って立ち上がり、足早に店を出て行った。
 やっちゃったかなぁ……。俺は美しい後姿を揺らしながら出ていく彼女をボーっと見ながら、すでにちょっと後悔をした。

「ソータ様ぁ……」
 エステルはウルウルしながら俺の手を取った。
 俺はエステルの頭をポンポンと叩く。

「すみませーん! エールおかわり!」
 おばちゃんに叫んだ。

       ◇

 腹いっぱい飲み食いして、店を出る。
 エステルは気持ちよさそうにふらふらしながら、
「お月様がきれいですぅ」
 と言って、両手を月に伸ばした。