可愛い女の子に養ってもらいながら、異世界でのんびり暮らすなんて……、ん?
 それって最高なのでは?
 いやいやいや、ちょっと待って。俺は日本でいい会社入って、毎日朝から晩まで働いて、可愛い嫁さんもらうんだ……って、そんな実現怪しい道より目の前のヒモ?
 俺は頭を抱えた。
 可愛い少女のヒモ……、なんて魅力的なんだ……。
「嫌です?」 
「い、嫌じゃないよ! 嫌じゃない! ただ……」
 俺はここで思い直す。やはり自分の人生は自分の足で自立しなきゃダメだ。やりがいをもって稼ぐこと、これが人生には大切なのだ。
「大丈夫、ありがとう。俺はちゃんと自分で稼ぐから」
 俺はそう言ってニッコリと笑った。
「そうです? いつでも頼ってくださいね」
 エステルはちょっと寂しそうに言う。
 俺は自分のことを一生懸命考えてくれる少女の言葉に、胸が熱くなる思いがした。こんなに俺の事を考えてくれる人に会ったのは初めてかもしれない。俺はちょっと目頭を押さえ、この素敵な出会いに感謝をした。




1-19. 大人の誘惑

「ここ……、いいかしら?」
 いきなり声をかけられ、驚いて振り返ると、クラウディアだった。
 着替えてワンピースになり、お化粧もバッチリ決めたクラウディアは、まるで別人のように美しかった。
「ど、どうぞ……」
 俺はその美貌に圧倒されながら席を引いた。
「エールお願いしまーす!」
 クラウディアはおばちゃんに向けて叫ぶ。

「ど、どうしたんですか?」
 女の子の方から接近された経験などない俺はドギマギしながら聞く。
「前を通りがかったら見かけたので……。さっきはありがとう。助かったわ」
 クラウディアはニッコリと笑う。
「いや、こちらこそ魔石をありがとう」
 俺は照れながら頑張って返事をした。

 ジョッキが来たので乾杯である。
「では、お疲れ様! カンパーイ!」
「カンパーイ!」「かんぱーい」

 クラウディアは俺をジッと見つめる。美人に見つめられるとエールの味が良く分からない。俺はゴクゴクとエールを飲んだ。

 クラウディアはエステルを鋭い目でチラッと見る。 
「お、おトイレ、行ってきます……」
 エステルがちょっとビビったように席を立つ。

「それで……、さっきの話、考えてくれた?」
 エステルの後姿を確認した後、クラウディアは単刀直入に切り込んでくる。