ダサいヘルメットをかぶった工事現場の作業員の様な身なり。武器らしい武器も持ってない。なのになぜこんなに自信満々なのか? と、クラウディアは困惑してるようだった。しかし、前衛崩壊、ホーリーシールドが破られたら全滅確定の命の危機に、答えなど一つしかなかった。

「お、お願いします……」

 俺はニコッと笑うとシールドの脇から殺虫剤を噴射した。

ブシュ――――!

 派手な音を立てながら殺虫成分がワイバーンに襲いかかる。
 ワイバーンは俺の方をギロっと睨んだが、直後、「ギョエ――――!」と断末魔の叫びを上げながらどす黒く変色し……、そしてドロッと液体になって溶け落ち、最後には真っ赤な魔石がコロコロと転がった。

「う……、うそ……」
 クラウディアは目を真ん丸に見開いて言った。魔術師も唖然(あぜん)としている。

「はい、お疲れ様でした」
 俺はクラウディアを見てニッコリと笑いかけた。

「あ、あなた何やったの?」
 クラウディアは眉間(みけん)にしわを寄せて聞いてくる。
「俺は薬剤師、ワイバーンに効く薬を調合して、かけたんだよ」
 俺は適当に嘘をつく。そもそも俺自身、なぜ殺虫剤で魔物を倒せているのか分からないのだ。でも、『分からない』じゃ誰も納得しない。それっぽい説明しておいた方が都合が良さそうだった。
「薬剤師……。聞いたことないわ。あの()と……パーティ組んでるの?」
 そう言ってエステルの方を見る。
「そうです! 私はソータ様の付き人なんです! ソータ様は何と言っても……」
 エステルは得意げに解説を始めたので、俺は、
「エステル! あの倒れてる前衛を治してやってくれ!」
 と、ごまかした。稀人だということを知られると、ロクなことにならないに違いないのだ。俺は金貨を安定的に得られる道を作るのが第一目的なのだから。

「あ、そ、そうですね!」
 エステルがテッテッテと走って治癒魔法をかけにいった。

「た、助かったわ……。ありがとう……」
 クラウディアは疲れ切った顔で伏し目がちに言った。魔術師も頭を下げる。

 俺は真紅に輝く魔石を拾うと、
「これは山分けでいいですか?」
 と、聞く。
 クラウディアは首を振って言った。
「何言ってるのよ。あなたの物よ。私たちは命があっただけでもラッキーなんだから」
「そう? ありがとう」