俺は買取手続きを進め、あっさりと現金の入った封筒を手渡された。
 ずっしりとした重みを感じる封筒……。これは冒険者としての初任給と言えるかもしれない。
 俺は帰り道、人目につかない所でガッツポーズを繰り返した。
「行ける! 行けるぞ! もう就活なんて止め止め! 俺は冒険者になるのだ!」

 俺はうれしくてうれしくて何度も飛び上がった。

       ◇

 ケーキ屋で芸術的な装飾が施された高級なケーキを二つ買い、部屋に戻った。

「ただいまちゃーん!」
 俺は上機嫌でリビングのドアをバーンと開けた。
 すると……、
「いっちにー! いっちにー!」
 エステルがTシャツ一枚で、下に何もはかずに腕を振り上げ、踊っていた。
 真っ白く艶やかで優美な曲線を描く太もものラインが、露わになって揺れている。
「え?」
 あまりに予想外の事に呆然(ぼうぜん)とする俺と目が合った……。

「きゃぁ!」「うわぁ!」
 俺は後ろを向いて聞いた。
「ご、ごめん……。でも……何してるの……?」

 エステルは急いでスウェットをはきながら言う。
「申し訳ないですぅ……。日課の体操なんです。暑くなっちゃって……」
「あー、ごめん。エアコンの使い方教えてなかったね」
 俺はエアコンのリモコンを取ると、見せながらボタンを押した。
「これを使うと涼しくなるんだよ」
「え!? すごい! 氷魔法です!」
「魔法じゃなくて科学だな」
「科学……?」
 首をかしげるエステル。
 やがて出てきた冷風を浴びて、
「うわぁ、涼しいですぅ」
 と、目を閉じて金髪をなびかせながら幸せそうに言った。

        ◇

「ケーキ食べよう! ケーキ!」
 そう言って俺はテーブルにケーキを並べた。
 ケーキの上にはパティシエが丹精込めた芸術的なチョコのオブジェが載っている。
「えっ!? 何ですかこれ!?」
「いいから食べてごらん」
 俺はフォークを渡す。
 エステルは恐る恐るフォークでチョコのアートを口に運ぶ……。
「うわぁ! あまぁい!」
 最高の笑顔を見せるエステル。
「金貨を使って買って来たんだ」
「うふふっ、金貨最高ですぅ!」
「そうそう、最高だよ! ちゃんと最後に清算してエステルにも渡すからね」
「いやいや、私は付き人ですから……」
「遠慮しないの、一緒に儲けよう」
「……、頑張るです!」