エステルには俺のパーカーを着せてみる。さすがにブカブカなのでそでを折って着てもらう。エステルはパーカーの匂いをクンクン()いでうれしそうにニコニコしている。大丈夫だろうか?

 ダンジョンに潜ると、スライムのいたところに出る。暗闇の危険性はよく分かったので、エステルに照明の魔法を使ってもらい、明るい中を移動していく。

 次々と出てくるコボルトやオーク、ゴブリンを難なく倒しながら進んでいくと、壁面に大きな扉が現れた。

「あー、これはモンスターハウスかもです……」
 エステルが言う。
「何それ?」
「モンスターがうじゃうじゃ大量にいる小部屋の事ですよ。宝も多いですが皆さん結構倒すのに苦労しているです」
「宝!?」
 俺は聞き捨てならない単語に色めき立った。
「そうです、宝箱の中に金貨とかポーションとか、武器とかあるです」
「欲しい! 欲しい! 行こうよ!」
「えー!? ソータ様、安全第一で行くって言ってたじゃないですか」
「殺虫剤が効くなら何とかなるよ。ダメだったら鏡に逃げよう」
「うーん、そうです?」
 エステルは気乗りしない様子だった。でも、お宝を前に素通りはできない。俺は就活をほっぽり出してダンジョンに来ているのだ。何らかの成果を上げない限り、就活に戻らざるを得なくなる。もう『無い内定』の人なんて周りに数えるほどしかいないのだ。

「さぁ、やるぞ!」
 俺はそう言って、くん煙式殺虫剤『バルザン』を取り出した。家全体を煙でいぶすタイプの殺虫剤だ。俺はふたを開けて点火場所をこすって火を起こす……。
 しばらく待っているとブシューと煙が噴き出し始めたので、ドアを少しだけ開けてバルザンを放り込んだ。
 そしてドアを閉め、輪っかになってる取っ手の所に物干しざおを突っ込み、(かんぬき)のようにしてドアが開かないようにした。
 少し離れて様子を見ていると、ドアが内側から激しい勢いでガンガン! と叩かれ、ドアがきしむ。

「いやぁ!」
 エステルがビビって俺にしがみつく。
 ここは物干しざおに頑張ってもらうしかない。

 魔物の叩く勢いでドアがギシギシと揺れている。
「頼むぞ、物干しざお……」
 俺は手に汗を握りながら推移を見守った……。

「ソータ様ぁ……」
 エステルが震えているので、俺は手をギュッとにぎってあげながらドアをにらんだ。