エステルがまたゴブリンたちに囲まれていた。

「グギャケケケ!」「グルグルグル!」「グギャ――――!」
 ゴブリンたちはうれしそうにエステルを取り囲んで雄たけびを上げる。
 エステルは殺虫剤を持っていて、ゴブリンたちに吹きかけているのだが……、全然効いていない。一体なぜだ?

 俺は急いで物干しざおと殺虫剤を手に取るとゴブリンたちに駆け寄り、殺虫剤をプシューっと噴霧した。
 すると、ゴブリンたちは
「グギャァッ!」「ギャァッ!」
 と断末魔の悲鳴を上げ、次々とドス黒く変色し……、溶け落ちて行った。

 やっぱり殺虫剤は効くのだ。しかし、同じ製品の殺虫剤をエステルがかけても効かなかった……。こんな事あるのだろうか?
 俺はいぶかしく思いながらも、エステルに駆け寄った。

「ソータ様ぁ! うわぁぁぁぁん!」
 エステルは思いっきり抱き着いてくる。
 俺もホッとしてエステルをしっかりと抱きしめた。
 温かく、そして柔らかい細身の身体。俺はそれを全身で感じ、無事を喜んだ。

「ヒックヒック……、ごめんなさい、描いた地図を洞窟に落としたままだったので、ちょっと拾おうと出ただけなんです。そしたらいきなりゴブリンが湧いて……」
 エステルは泣きながら説明する。
「これからは一人でダンジョンへ行くのは禁止な」
 俺はぎゅっと抱きしめて言った。
「は、はい……」
 ふんわりと立ち上ってくる甘酸っぱい優しい匂いに包まれて、俺は心から安堵した。

      ◇

 部屋に戻り、オレンジジュースを一口飲んで、エステルが言った。
「私の殺虫剤は効きませんでした……。やっぱりソータ様でないとダメなんです。ソータ様は世界を救う稀人(まれびと)だったんです……」
 キラキラとした瞳で俺をジッと見つめるエステル。
「いやぁ、そんなことってあるのかな? 誰がかけたって殺虫剤の成分は同じだよ」
「実際、私は効きませんでしたよ!」
「うん、俺も見てた……。なんでかなぁ?」
「ソータ様が稀人ってことです!」
 エステルは両手のこぶしを握って興奮気味に言う。
「うーん、良く分からないけど、エステルは引き続き後衛な。俺が殺虫剤担当で」
「はいっ! 次は天井にも注意するです!」
 エステルはうれしそうに言った。

       ◇

 食後にダンジョンに再エントリーする事にした。