エステルは軽くうなずくとまた、ケホッケホッっと咳をした。

 俺は鏡を取り出すと急いでエステルを抱き上げて部屋へと運ぶ。
 そしてバスタオルで全身を拭いて毛布でくるみ、ベッドに寝かせた。

 弱ってベッドで眠るエステル……。
 俺はその横顔を見つめながら、手を握って回復を祈った。

 やはりダンジョンは一筋縄ではいかないのだ。
 魔物だってバカじゃない、あの手この手で我々を狙ってくるのだ。俺は自らの浅はかさを恥じた。

 しばらくすると、エステルは目を開き、こっちを向いた。
「ソータ様、申し訳ございません……」
 泣きそうな目でそういうエステル。
 俺は首を振って、
「俺が不注意だった。ごめんね」
 と、謝り、そっと美しい金髪をなでた。

 その後、治癒魔法をかけたいということで一旦ダンジョンへと移動する事になった。どうも日本では魔法が使えないらしい。しかし、服はボロボロ、実質全裸である。俺はTシャツとスエットパンツを棚から掘り出して、エステルに渡した。

 フラフラとしながら着替えるエステル。
「うふふ、ソータ様の匂いがしますぅ」
 と、力なく笑う。
 少しは余裕が出てきたようでホッとした。

 エステルはブカブカのスエットパンツのすそを折りたたむと、鏡の向こうをじっくりと偵察する。そして杖を持ってヨロヨロとダンジョンへと入って行った。

 しばらくすると、鏡から顔を出して
「もう大丈夫です! 先を行きましょう!」
 と、元気に笑った。

 俺はホッと胸をなでおろした。
 だが……、俺はちょっと疲れてしまって、いったん休憩を入れることにする。

       ◇

 コンビニに行って、おにぎりやジュースなどを買い込む。異世界人は何を喜ぶのか良く分からなかったので、種類多めにして買ってみた。

「エステル、戻ったよー!」
 部屋のドアを開けると……、いない……。
「おい! エステル!」
 声をかけるが返事がない。トイレにもベランダにもいない。
 見ると靴もない。もしかして一人でダンジョンへ行ってしまったのでは?
 折角生き返ったのに、一体何をやってるんだあいつは! 俺はまたエステルを失うかもしれない恐怖に真っ青になった。

 













1-10. モンスターハウス

 急いで鏡に頭を突っ込んでみると……。

「いやぁぁぁ! やめてぇぇぇ!」