エステルがシャワーを浴びている間、俺はパンを焼いてミニトマトを洗い、ヘタをとった。

      ◇

 朝食をとりながら、作戦会議をする。目標はエステルを家まで届けることと、ダンジョンと魔物の情報をなるべく集めることだ。
 前衛は俺、物干しざおと殺虫剤で戦闘を担当する。後衛はエステル。索敵とマッピングと逃げ場所確保担当。ケガした時の治療もお願いする。
 そして、安全第一で、少しでもヤバかったらすぐに鏡に逃げ込むことをエステルに厳命した。

「分かったです!」
 エステルは子リスのようにミニトマトをほお張りながら、うれしそうに答えた。
 









1-8. もう一つの就活

 食べ終わると俺は皿を軽く洗い、リュックに荷物を詰め、防刃ベストを着込んで装備を整えた。

「それでは行くです!」
 エステルはやる気満々でこぶしを握り、ニッコリと笑った。
 
 俺は物干しざおを左手に、殺虫剤を右手に持ってダンジョンに乗り込む。
 いよいよ、俺のもう一つの就活が始まる。金貨だ、金貨を確保する道を見つけ出すのだ!

 エステルは背中に鏡を背負って、鉛筆で洞窟の地図を作りながら俺についてくる。
 洞窟はいぜんジメジメとしてカビ臭く、足場は悪い。
 歩きながらエステルにワナの見つけ方を教えてもらう。でも、エステル自身ワナにはまって落ちているので信憑(しんぴょう)性は微妙なのだが。
 昨日は気が付かなかったが、壁面には淡く光る石が含まれていて、ライトを消しても月明かりの夜程度の明るさにはなっていた。でも、月明かり程度ではワナは見抜けないので基本ヘッドライトは点けて進む。

 程なくエステルが襲われていた広間についた。魔物もおらずシーンとしている。

「付近に魔物の反応はないです」
 エステルは索敵の魔法を使って教えてくれた。頼りになる。

「ではこっちから行ってみるか……」
 俺はコボルトが出てきた洞窟の方へ足を進める。
 ワナに警戒しながらゆっくりと進んでいくと、エステルが小声で言った。
「ソータ様! この先に魔物がいるです!」
「え? どんなの?」
「良く分かりませんが……、一匹です。コボルトやゴブリンよりは強そうです」
 いよいよ戦闘である。

 俺はヘッドライトを消し、殺虫剤のロックを解除し、物干しざおを構えながらソロリソロリと進んでいく。