「いいから寝かせて……」
「ベッドでー」
 エステルは俺を起こそうとして、足が滑って俺の上に倒れ込む。
「きゃぁ!」「うわっ!」
 エステルが俺の上に抱き着いた格好になり、俺は反射的に彼女の身体を両手で抱きかかえた。甘酸っぱい少女の香りが俺を包み、柔らかな胸のふくらみが俺に押し付けられる。
 いきなりやってきた予想もしない展開に俺は言葉を失う。
 エステルも、どうしたらいいかわからなくなって固まっている。

 気まずい沈黙の時間が流れた……。

 エステルの甘い吐息が俺の耳にかかり、ドクドクと速く打つ心臓の音が聞こえる。

 俺は横にゴロンと転がって、エステルの上になる。
 エステルは目をギュッと閉じた。プックリとした果実のような赤い唇がキュッと動く。

  このままエステルを……。おれはそっと柔らかくすべすべとしたエステルの(ほお)をなでる。と、その時、エステルが震えている事に気が付いた。

 俺は正気を取り戻す。震えている女の子に手を出してはダメだ。俺は大きく息をつき……、体を起こすとベッドに転がった。
「危ないから気を付けてね」
 俺はそう言って毛布をかぶった。

「ご……、ごめんな……さい」
 エステルは真っ赤になりながらそーっと身体を起こし、正座してうつむく。

「はしたないことしてしまいました……。付き人失格ですぅ……」
 エステルはひどくしょげている。

 俺は眠ろうとしたが、すっかり目が覚めてしまって眠るどころではなくなっていた。どうしたものかと悩んでいると、
「あのぉ……」
 と、エステルが声をかけてくる。
 俺は毛布をそっとずらしてエステルを見る。なぜか真っ赤になってモジモジしている。

「どうしたの?」
 怪訝(けげん)に思って聞いた。
「お、おトイレ……、どこ……です?」
 そう言って、エステルは恥ずかしそうにうつむいた。

「あ、ごめんごめん。こっちだよ。シャワーも浴びてね」
 俺は立ち上がって玄関わきのユニットバスに案内した。
 そして、ウォシュレットとシャワーの使い方を簡単に教えてあげる。
 しばらくすると、
「ひゃぅっ!」
 というエステルの叫び声が聞こえた。きっとウォシュレットにビックリしているのだろう。

 もう眠れる気もしないので、朝食にすることにした。