俺はダンジョンへ移動し、鏡面を持ち運んでみた。移動させても鏡面は液体のままだった。そして、中をのぞくと俺の部屋のままだった。
 その後いろいろやってみたところ、鏡面は持ち運んでも空間は接続され続けるが、【φ】を描くと空間の接続はオンオフされ、一度オフにすると次の接続先は一番最初に戻るようだった。
 で、あるならば、鏡面は持ち歩いて、ヤバくなったら鏡面に逃げ込んで接続をオフにするという作戦が使えそうだ。エステルには鏡面担当をやってもらい、常に持ち歩いて、危なくなったら先に逃げてもらえばバッチリだ。
 俺は段ボールで姿見のケースを作り、背負えるように(ひも)を付けた。エステルには頑張って持ち運んでもらおう。

 いろいろやっているうちに夜になってしまった。冷凍パスタをチンして軽く夕食を食べたが……、エステルはまだ起きない。今日はもう寝るしかないが……、一体どこで寝たらいいのだろうか?
 幸せそうにスヤスヤと寝るエステルを、俺はぼーっと眺めた。サラサラとした金髪が美しく輝き、透き通るような白い肌は寝息に合わせて無防備にゆっくりと上下を繰り返す。少女から大人の女性へと脱皮していくような確かな生命力を感じ、俺はグッと来てしまう。
「可愛いよなぁ……」
 つい本音が漏れる。

 詰めたら二人で寝られるかもしれないが……、こんな美少女と一緒に寝るなんて、絶対にロクな事にならない。そもそも眠れないだろう。諦めて床で寝ることにした。
 毛布を出し、座布団を工夫して寝床を作り、電気を消す。
 ちょっと床に腰の骨が当たって痛いが仕方ない。
 スースーというエステルの寝息を聞きながら、俺は意識が薄れていった。

 おやすみ……、エステル……。









1-7. 重なる二人

「ソータ様! 申し訳ございません!」
 耳元で大きな声がして、俺は目が覚めた。
「ん?」
 寝ぼけ眼で辺りを見回すと、明るくなり始めた部屋の中でエステルが土下座している。
「ど、どうしたの?」
 俺が目をこすりながら体を起こすと、
「ソータ様の寝床を奪ってしまいました! 付き人としてこの不手際、何なりと罰をお申し付けください!」
 と、エステルはひどく恐縮している。
「ふぁーあ……。そんなのは後でいいから今は寝かせて……」
 俺は毛布に潜り込む。
「ダメです! ベッドで寝るです!」