あのファミレスの時以来だ…。
匡が『間下のせいであたしが匡に近づかなくなったらどうするんだ』とか、
意味わかんない思考回路で怒ってた日…。

数秒硬直したけれど、匡の言葉を思い出すとなんだかおかしくなって、自然と肩の力が抜けた。

「久しぶり…」

私何言ってんの?
久しぶりなんて挨拶して…
まるでファミレスの時の間下みたい。

そうか…
なんとも思ってない人にはこういう挨拶ができるんだね。

自分の中の恋心の残骸が風に舞って飛んでいくような感覚を感じた。


「久しぶり、じゃねぇよ。
あのヤンキー彼氏はどうしたんだよ。」

「アハハ…一応元ヤンだよ。」

「知らねぇよ!
あんな容赦なく人を殴るやつどう考えてもイカれてんだろ。」

「たしかに谷くんはバカだけど、
あんたよりはましよ。」

麗香が淀みなくそう言うと、間下は言葉をつまらせた。

「お…俺が近衛に何したんだよ!
勝手に被害妄想してるだけじゃねぇの!」


私は黙って間下を見た。


『中学時代、本当は間下のことが好きだった』
『実はあの陰口聞いてたんだ』
『それ以来トラウマになって人との距離感に悩んでた』

間下に向ける感情は、今のあたしが何を言っても
誰の得にもならない。

それだったらあえて何も言わなくていい。

もう私は違う道で歩き出してる。


「ファミレスのときは匡がごめん。」

「なんでお前が謝るんだよ」

「…。」

「やっぱアイツと付き合ってんのかよ。」

「そうだよ」

「ハァー…」

間下は深くため息をついた。

「趣味わる」

間下はそう言うとジェラートの列から抜けようとした。

「えっ、抜けるの?」
「てか間下1人で並んでたの?」

「うっせぇーな!甘いもん好きなんだよ!」

「並んでればいいじゃない。
あ、谷くんも呼びましょっか!」

麗香の満面の笑顔での提案に間下の顔は青ざめた。

「冗談じゃねぇ!帰るよ!!」


間下は列から抜けると駅の方へ歩いていった。

私はその背中に何も声はかけなかった。

「いいの?都」

「うん…

もういいの」


麗香に笑顔を向けると、
麗香もほっとしたように笑った。